エステ経営者(エステオーナー)とお話をしていると、ほとんどの方が悩んでいるのは「店長育成の問題」です。

口々によく聞くフレーズは、

「優秀な店長が辞めてしまって困っている」「店長が育たない」「店長が現場に寄りすぎていて話にならない…」「みんな店長になりたくないと言っている」「いい店長がいたら出店できるけど、このままだと難しい」といった内容です。

この記事をお読みのエステ経営者の皆さまが思い当ったり、一度は過去に口にしたりしたフレーズではないでしょうか。

 

そこで今回はエステサロンにおける「店長育成のコツ」というテーマで記事を書きますので、特にエステ経営者の皆さまは最後までお読みください。(※エステのHRコンサルティングを行っているコンサルタントが執筆しています。)

 

店長が育たない5店舗以下のサロン現場で起こっているリアル

これから店長が育たない5店舗未満のサロン現場で実際によくある状況をお伝えしますので、皆さまのサロンでそのような事が起こっていないか照らし合わせながらお読みください。

 

ケース①:1店舗のトータルビューティーサロンをモデルとしたシチュエーション

1. 大好きな美容で念願かなってサロン開業。このサービスはすごく良いのでたくさんの人に受けてもらいたいという思いが強いし、その思いはスタッフさんにも理解してもらって、技術の向上を続けてほしい。

2. オーナー自身は「これぐらいは出来て当たり前よね!」と思うけど、なかなかスタッフさんに教えても技術レベルが上がらない。それでも何とか苦労しながらも、ようやく手塩にかけて育てたスタッフさんの技術レベルがオーナーとしても納得いくレベルまで到達した。

3. お店の売上や集客数も安定してきたので、そろそろ2店舗目を出したい。でもスタッフさんの技術レベルがもっと統一されないとせっかく出店しても失敗しそうな気がする。

4. もし2店舗目を出すなら店長にしたいスタッフさんは1名いるけど、それより後に入ってきたスタッフさんは技術力の習得がイマイチで物足りない。

5. 技術の教育の仕組み作りとか、研修をもっとやらないといけないとは思うけど、日々のお客様対応もあるし、店舗管理業務も今はまだオーナー自身がかなりやっているので時間がない。どうしよう…

 

ポイントまとめ
・施術に対するオーナーのこだわりが強く、スタッフさんに求める施術レベルも高い。
・1人を育てるまでの労力がかなりかかる。
・スタッフ教育のやり方に問題意識はあるものの、オーナーがプレイヤーで忙しくて仕組化がなかなか進まない。

 

いかがでしょうか。シチュエーションをできるだけ鮮明に共有できるようにリアルな描写も加えて書きましたが、このような状況は特に女性オーナーのサロンでよく見かける印象です。

それでは続いてはケース②です。

 

ケース②:3店舗の痩身サロンをモデルにしたシチュエーション

1. スタッフ教育は現場に任しており、店長や先輩が新人スタッフに技術教育を行う。そして高い技術力を習得した優秀なスタッフさんが育ってきて、彼女たちの個人売上が徐々に上がってくる。

2. サロン内でのスタッフ評価基準は基本的に個人売上なので、個人売上が高いスタッフさんが店長に抜擢される。

3. 社長やマネージャーや店長が集う店長会議では数字(売上や集客数など)の話が中心で、理念やサロンの方向性やスタッフ個人のやりがいといった点はあまり触れられない。その結果、現場の施術レベルが下がり、継続売上が減っていき、口コミも悪化していく。その穴埋めとして新規集客への投資を増やすも悪い口コミのせいで思ったように集客ができずに焦る。

4. 個人売上基準で抜擢されたスタッフさんが店長にはなったが、「あの人のためなら動きたい」とか「あの人が言うなら動こう!」といったような周囲への影響を与えられなかったり、周囲から慕われていなかったりする人もいて、他のメンバーを巻き込む事ができない。(個人売上は自分さえ頑張れば結果が出るけど、店舗売上は他のスタッフさんを動かさないと作れないので、その壁にぶち当たる。)

5. 他のスタッフさんを巻き込んで、動いてもらって店舗全体で施策を進められず、また自分の担当顧客対応や店舗管理業務などたくさんの業務を並行して行うため日々忙しく、他のスタッフさんをじっくり育てる時間が取れなくて他のスタッフさんが育たない。それゆえに、店舗売上をあげられずに悩む。

6. 店長会議でオーナーやマネージャーから「どうして貴女の店舗は売上があがらないの?ちゃんと指導している?」と詰められる。そんな会議が重なってくると、個人で活躍していた時の自分とのギャップ、そして情けなさ、オーナーや幹部との心の距離が広がって精神的に孤立してどんどん仕事が辛くなる。会議に出るのがどんどん辛くなってきて、会議の日が近づいてくると、特に店舗売上が良くない月は胃が痛くなる。

7. 「自分は店長に向いていないのではないか。店長をおろしてもらうようにお願いしようか。」と考えてはみるものの、他に自分の代わりに店長をやれそうな子が思い当らない。そのような葛藤と共に時間が過ぎ、どんどん自分に自信がなくなっていく。その結果、昔は好きだったサロンの事が徐々に好きではなくなっていく。

8. 自分が逃げ出したい環境は「エステティシャンという仕事から」なのか、それとも「店長という仕事から」なのかで迷う。しかし、その悩んでいるタイミングでお客様への施術中に感謝の言葉をかけてもらい、この仕事自体は好きだという自分に気づく。そして、同業サロンへの転職へと進んでいく。

9. その店長が辞めてしまっても店舗を閉める訳にはいかないので、その下のメンバーを店長に据えて店舗再建を進める。しかし、染みついた社風や雰囲気はすぐに変わる事はなく、また店長会議をきっかけに新しい店長も悩みだして崩れていく。

10. そのような負の連鎖が止まらず、いよいよ既存店舗の売上や生産性が大きく下がってくる。オーナーとしてはホットペッパービューティー等の広告費代もちらつき、これだけ広告をかけて集客しているのにそれを現場が対応できない事へのいら立ちが積もっていく。

11. しかし、これ以上厳しく現場と接すると辞めていくスタッフさんが出ても困るので、できるだけ優しく対応するように心がける。そうすると、現場がどんどん緩んできて、統率が取れなくなってきてオーナーが悩む。「優秀な店長が欲しい…」と。

 

ポイントまとめ
・スタッフ教育が現場での技術指導のみになっている。
・店長選びの基準が個人売上のみになっている。
・店長が現場を動かすスキルを習得する機会がない。
・店長会議では売上等の数字の話ばかりになっている。
・売上不振店の店長が退職する。
・次の店長候補が育っておらず付け焼刃の店長抜擢を繰り返す。

 

ケース③:5店舗の痩身サロンをモデルにしたシチュエーション

1. 男性オーナーの私は自らが施術現場に出る事はないけど、ワンマン経営者としてサロンを運営している。将来的に10店舗まで広げたいという思いを持っていて、できるだけ早く出店を加速させたいと考えている。

2. 3店舗目の出店の時に徐々に地域の中でも知名度が上がってきたタイミングだったので、新卒採用に挑戦してみた。しかし、せっかく新卒採用には成功したものの、中途中心の弱肉強食サロンの中で新卒スタッフさんはどんどん退職してしまった。

3. 「新卒の子が残りたいと思わないようなサロンに未来はあるのか…」と考え、どうしたら新卒スタッフさんが残りやすい職場(働きやすい職場)になるのか必死に考え、社風改革の一環でワンマン社長体制からチームプレー体制へと方向転換することにした。

4. オーナーが店長会議に出て会議を回して、時には叱咤激励をするのではなく、極力現場からは離れて任せていく体制にしようと考えたが、いきなり現場を抜ける訳にはいかないのでまずはオーナー自らが日報を通じて自分の考えや想いを発信した。そして、会議の場では積極的にスタッフさんの声を聞く時間を増やした。そしたら意外とたくさんの意見が出てきたので、それを皆で評価して実行してきた。実行してきた事の中で成果に結びついたものも出てきて、現場のスタッフさんたちが生き生きと仕事をするように変わってきた。

5. さらに、次なる強い店長育成に向けて、そもそも店長の仕事とは何かを定義した上で、店長のための研修や次世代店長候補のための研修プログラムを作り運用し始めた。それらによって、人材の層は徐々に厚くなった。

6. 無事に店長が育つ環境は整ってきたものの、オーナーとしては現在の課題は店長より上のクラスの幹部育成だと考え始めるようになった。幹部がオーナーと同じ高さの視点で経営について、全社について考えられるようになってほしい。また、その結果として新規事業や今までの自分たちにはない新しい視点のサービスを生み出すきっかけにしたい。

7. そのように思っているが、どのように幹部の次のステージを描き、幹部を育てていけばよいか分からないというのが今の悩み…。

 

ポイントまとめ
・オーナーの出店意欲が強い。
・ワンマン社長体制からチームプレー体制へと方向転換した。
・店長や次世代店長のための教育プログラムを作った。
・店長育成の型は出来たが、幹部育成の型作りについては手探り状態が続いている。

 

こちらはある程度、現場スタッフさんから店長が育つ仕組み作りには成功しているけど、その上の幹部育成に課題を感じておられるというサロンシチュエーションでした。

では続いて、店長が育たない5店舗以下のサロンが実際にどのように考えて、何をしていけばよいのか。その点について話を進めていきます。

 

そのような現場になってしまう理由とは?

先ほど3種類のサロンの実情について書きましたが、そもそもなぜそのような事態が起こるのかという点は、大きく分けて2つあります。

 

① 店長育成の前に、店長候補の選び方が間違っている…

よくあるサロンではスタッフさんが入社して、まずは技術と接客を学ぶ。そして最初は先輩と一緒に施術やカウンセリングに入り、しばらくして独り立ちして自分ひとりで担当する。

その後は時々クレームももらいながら反省もしながら、技術力・接客力を学びながら、新しい美容知識も身についてきたら、徐々に個人売上も上がってくる。

そしてある時、「店長になりませんか?」とオーナーや店長から声がかかる。理由は個人売上が高いから。

つまり、「店長選びの主な基準を個人売上に設定している」サロンが多いという事です。

 

これは一見すると正しいように見えますが、大きな落とし穴があります。

それは個人の売上は自分が頑張ればよかったけど、店長になって店舗の売上に責任をもつ立場になると、自分だけが頑張ってもどうにもならないという壁にぶつかるからです。

仮に、個人売上が高い人を選び、自分と同じように個人売上をあげられるスタッフさんを育てられたとしても、そういうケースは給料で揉めるケースが多いです。

私はこんなに個人売上をあげているのに、店舗売上や全社売上のせいで、あるいは会社やオーナーのせいで自分の給料があがっていかないのは納得がいきません!と言い出し、その方が育てたスタッフさんを引き連れて独立や転職をしていってしまいます。

 

では、どのような人を選ぶべきなのか。

大きくは2つあり、1つ目は「サロンの理念やビジョンに共感しているかどうか」、2つ目は「周囲にも良い影響を与えられるスキルや人柄であるか」この2点だといえます。

1つ目の理念やビジョンへの共感という点は抜けがちですが実はかなり大事で、この理念やビジョンがあるからこのサロンに残って頑張ろうというモチベーションに繋がるものです。

2つ目の周囲に良い影響を与えられるかという点は、実際の現場で店長が店舗スタッフさんから負の相談をされる事が、オーナーが認識している回数よりも多い事がその理由です。

現場で店長は、「モチベーションが湧かない」とか「サロンを辞めようか考えている」などの負の相談を受けますが、良い影響を与えられない店長はその相談をそのままマネージャーやオーナーにあげてしまいます。

良い影響を与えられる店長は、一度本人の話をじっくり聞き、受け止めてあげた後に、「気持ちはわかるけど、こういう考え方もあるし、一緒に頑張ってみない?」と前に向かせてあげられる言動が取れます。

このようなスキルや人柄(=人望)がある方を選定基準に据える事が店長育成改革の第一歩といえます。

 

② 店長といっても、実は3段階に分けられる。(実際はそれを全てまとめて店長と呼んでしまっている…)

店長と一括りに言っても、実際のサロン現場では3つのレベルに分けられます。

 

1. お客様を満足させられる技術力・接遇力と個人売上をあげられる店長
この店長は、正確には店長というより実際は優秀な「エステティシャン」です。
2. 現場メンバーから信頼されて、管轄部署の結果をだせる店長
この店長は、まさに店舗の長なので、俗にいう「店長」です。
3. オーナーと一緒にお店の方針や戦略を考えられる店長
この店長は、正確には会社の「幹部」です。

 

同じ店長でもこれだけの違いがありますので、皆さまのサロンで求める店長のレベルや役割、そして主に責任を持たせる部分は何なのかを明確に設定する必要があります。

ところが、これを設定せずに店長が育たない、優秀な店長が欲しいと言い続け、あげくには他のサロンからヘッドハンティングしてきたけど、既存スタッフさんとの相性が最悪でサロン内が荒らされて困ったというオーナーも少なくありません。

まずは、「1を店長とは呼ばすに、2を店長と設定する」ところから始める事をおススメします。

 

 優秀な店長の3つの定義を正しく理解する

ここからは、先ほどお伝えしたエステティシャン・店長・幹部の3つの違いについてもう少し整理をします。

まず、「エステティシャン」とは高い技術力や接客力、そして豊富な美容知識をもとに、目の前のお客様にご満足いただく事が最大の役割であり、その結果として個人売上が付いてくるといえます。

次に、「店長」とは店舗メンバーから人として慕われていて「あの人が言うなら頑張ろう」という現場をやる気にさせる人望や徹底力、また不満やマイナスの感情があってもその店長になら話せると思わせられる人間関係構築力が求められます。さらには、時に自らの背中でメンバーに正しい方針を指し示す胆力や、メンバーの事を思いやり見えない部分でも丁寧にサポートしてあげる縁の下の力持ちを買ってでる姿勢も求められます。

最後に、「幹部」とはオーナーと一緒に会社の未来を考えながら、それを経営計画や実行計画に落とし込み、そして店長を軸としてその実行計画通りにPDCAを進めていく役割が求められます。そのためには、サロンの過去理解(サロン開業から現在にかけての変遷)から始まり、現状理解(経営数値や業界動向の理解)、そして今後のサロンとしての方向性を検討する(理念策定や経営計画作り)事ができるための基礎知識を習得する必要があります。

この役割や違いが、まさにスタッフさんのキャリア形成やキャリアステップに繋がります。

 

 店長育成のポイントを理解する

それでは、ここからは「店長の育て方」に焦点を当てて、その手法について記載していきます。

エステティシャンから店長にステップアップするにあたって必要となる主なスキルは、「徹底力と人間関係構築力」でした。まず徹底力が欠けている店長・店長候補に対しては凡事徹底をさせます。営業日報や報告事項など、必ず期日通りに、規定の内容を提出させるようにします。この凡事徹底はオーナーや幹部が責任をもって、その子ができるようになるまでとことん付き合います。ここで中途半端にOKを出してしまうと、だらしないクセが付いてしまい、後々になって店舗全体にマイナスの影響を及ぼすため、絶対に手を抜かないようにします。

次に人間関係構築力については、実は凡事徹底ができて約束事を絶対に守る姿勢が身についている店長・店長候補はおのずとメンバーと上手に信頼関係を気づく土壌が整います。その上で、メンバーとのコミュニケーションの方法を教えます。例えば、メンバーの性格診断や強み診断結果に基づいて、メンバーごとの最適な声のかけ方やメンバーに任せる役割の整理を一緒に行ったり、1対1面談(1on1)の回し方を教えたり(メンバーと話す頻度は短時間×多頻度の方が良い!やメンバー側に8割ぐらいの時間を話させる!等)、情報発信方法(会議、日報、面談、雑談の役割整理など)を教えたりします。

このような流れで、皆さまのサロンでも店長育成について改めて見直していただけると幸いです。

 

つむぎ株式会社ではエステサロン向け「店長育成・幹部育成」のHRコンサルティングもしておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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