京都グリーフケア協会の上野山栄作さん

お葬式を実施するうえで耳にする言葉の一つに、「グリーフケア」があります。言葉を聞いたことがあっても、正確に把握していない方は多いはずです。また、葬儀業界で働きながらも、「どう説明すればいいのか悩む」という方がいるかもしれません。

今回は、和歌山県で複数の斎場を展開する、株式会社オレンジライフ 代表取締役社長の上野山栄作さんにお話を伺いました。上野山さんは、一般社団法人京都グリーフケア協会の理事長も務められており、グリーフケアスクールを開講されています。

協会を立ち上げる経緯やグリーフケアの概要、お葬式でグリーフケアが重要になる理由などをお話いただきました。グリーフケアに関する新しい知見が得られるため、ぜひ最後までご覧ください。

「葬儀業界はこのままではいけない」との想いから京都グリーフケア協会を設立

京都グリーフケア協会
上野山さんが京都グリーフケア協会を設立されたのは、2011年6月。なぜ協会を立ち上げたのか、きっかけについて伺いました。

「約15年ほど前の話ですが、メディア等で『葬儀業界はひどい業界だ』と言われていたのです。お客様が法外な金額を請求されるケースが紹介されたこともあって、葬儀業界に対して冷たい視線が注がれていました。

当時、私は全日本葬祭業協同組合連合会の政策企画委員会に所属し、全国の遺族会の代表の方々とお話をする機会をいただきました。そこで感じたのは、『葬儀業界は遺族心理をもっと理解しないといけない』ということ。お客様に寄り添う姿勢が求められる業界だけに、この状態は好ましくないと感じました」

遺族心理に寄り添ったお葬式を実現するため、グリーフケアについて学ぶことを決められた上野山さん。そこでの体験が協会の設立につながったと話します。

「独学ではダメだと思い、グリーフサポート事業を展開されている『株式会社ジーエスアイ』の代表取締役社長、橋爪謙一郎さんにまずは教えを乞いました。そして理論的なことや知識を取り込んでいくうちに『これはもっと多くの葬儀社が学ぶべきもの、学ばずして葬儀をすべきではない』と、危機感を抱き始めたんですよ。

業界全体として、もっと遺族心理に寄り添う姿勢を持たなければ、葬儀業界が良く思われる時代は来ないと感じました。私自身もさらに学びたいと思いましたが、関西でグリーフケアを教えるような機関はありませんでした。

であれば、私が作ろうと思って立ち上げることにしたのです。関西では来やすい場所で、落ち着いた環境で学べるようにしたいと思いました。また、グリーフを抱える方々ご本人のカウンセリングも行える様に、自然豊かな京都の鴨川沿いに設立しました」

「いいお葬式だった」と感じてもらえる土台にグリーフケアがある

京都グリーフケア協会の上野山栄作さん
グリーフケアとは、「身近な人を亡くした」など大きな喪失を経験した人が抱える悲しみや苦しみに寄り添い、健やかに生きていくためのサポートのことです。一般的にはカウンセリングやグループワークを通して、悲しみの共有や感情の整理などを実施します。葬儀社はカウンセラーではないものの、葬儀の中で行えるサポートは無限にあるのです。

一般的にグリーフケアは、誰かが亡くなってから実施されると考えられています。しかし、上野山さんは異なる認識を持たれていました。

「イメージとしては『誰かが亡くなった後からグリーフケアが始まる』と思われがちですが、現在では医療の発達により余命が明らかになるケースが多くあります。

例えば、愛する人が余命半年と告知されたとき。この段階からすでに、告知された本人もその周りにいる方も、グリーフを感じ始めています。亡くなる前の時点で感じているグリーフに対して、どういったアプローチをしていくのか。そこもグリーフケアの大切な第一歩です」

続いて、葬儀会社に求められる対応についてもお話いただきました。

「事前相談に来られるお客様の多くは、すでにグリーフを感じています。悲しみを抱いているからこそ、グリーフが大きくならないように対応する必要があります。そこで重要になるのが、ご遺族様の『遺族心理』に意識が向いているかどうかです。

病院にお迎えに上がる際、遺体安置でドライアイスを使う場面でも、ご遺族様と打ち合わせをする場面でも、遺族心理に目が向いているか。そこに目を向けつつ接することで、ご遺族様の悲しみの状況に合わせた対応が可能となります。

そして、最終的に『いいお葬式だった』と感じてもらえるお葬式を実現することで、後々にグリーフが少しでも軽減できればと思います。それこそ、葬儀社のもっとも大切な役割だと思うのです。

葬儀社のスタッフとして仕事をする際、大切にしたい考えの中心にあるのが、グリーフケアです」

お葬式の質が重要になるからこそ、グリーフケアの意義は大きい

京都グリーフケア協会
生き残りをかけた価格競争が激化している葬儀業界。上野山さんは現状に理解を示しつつ、今後はお葬式の質が重要になると話します。

「今の時代はWebやテレビといった媒体を通して、自社をどう見つけてもらうのかに注力する葬儀社が多く映ります。もちろん、見つけてもらうことが最初の一歩になるので、その点を否定するつもりは一切ありません。

一方、現在は口コミで葬儀社を選ぶ人がたくさんいます。どれだけ多くの人に見つけてもらっても、お葬式の質が悪ければ、その事実は口コミとして残るでしょう。

選ばれ続ける葬儀社を目指すのであれば、今後はお葬式の質が大切になります。そして、質を担保するために、グリーフケアの実践が欠かせないのです」

お葬式の質という側面では、具体的な例も挙げていただきました。

「荒っぽい話ですが、例えば、故人様のご遺体を納める棺を選ぶ際、5万〜100万円の数種類があったとします。葬儀社のスタッフが100万円の棺を提案した場合、中には『こんな高いものをおすすめするなんて』と思う方がいるかもしれません。

しかし、ご遺族様は故人のために最期にできることと考え、100万円の棺を選びました。その判断に『強引に買わされた』といったマイナスな感情はありません。ご遺族様の『最高の棺で送り出せた』という満足感(事実)をつくること、それが後々も記憶に残り、悲しい中にもひとつの達成感となり、グリーフケアの一種になります。

冒頭にもお伝えしたように、グリーフケアは死後の悲しみに向き合う方のサポートを行うことであって、カウンセリングや遺族会の開催等に特化して考えがちです。しかし、まだグリーフが始まったばかりのお葬儀の中にも、行えることはたくさんあります。お葬儀を充実して行ったことが、後々の立ち直りの助けとなるのです。

葬儀社のグリーフケアで重要なことは、故人らしい遺族の思いが叶う、良いお葬式を行うことなのです」

故人と過ごす最後の時間として、お葬式があり続ける

京都グリーフケア協会の上野山栄作さん
現在もグリーフケアに携わり続けている上野山さん。今後多くの方がグリーフケアを知り、実践することで、どのような世の中を実現させたいかという理想像を伺いました。

「ご遺族と信頼関係を構築し、自信を持って『こういったお葬式をしましょう』と提案する葬儀社が増えれば嬉しいです。もちろん、ご遺族のことを考え、最適な提案をする会社はすでにたくさんあります。しかし、中には多忙を極めるがあまり、提案にまで考えが及ばないところも見られるのです。

グリーフケアをベースに、1回のお葬式を大切にする考えがもっと広まると、葬儀社の存在意義はますます大きくなるでしょう。『葬儀は良いものだ。悲しい中でも葬儀を行うことで救われた。』そう言ってもらえるような葬儀が増えれば葬儀の社会的意義が得られると思います。葬儀業界に身を置く1人として、そんな世の中が実現してもらいたいです」

最後に、お葬式に対する想い、読者へのメッセージをいただきました。

「お葬式は故人と過ごす最期の時間です。一生の締めくくりになる瞬間だからこそ、お葬式を大事にする文化は残ってほしいと考えます。

葬儀社の皆さんには、ご遺族の方に対する向き合い方のヒントが得られていたら、私としても嬉しいです。また、これからお葬式をあげる方は、ぜひ後悔のない選択をしていただきたいですね。今回のお話が一助になっていたら幸いです」

終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

グリーフケアと日々向き合っている上野山さんのお考えが、皆様にも伝わったのではないでしょうか。葬儀会社で働かれているスタッフの方、およびグリーフケアに関心を持つ方にとって、意義のある内容となっていれば嬉しく思います。

つむぎでは今後も、葬儀業界に携わる方々の想いを発信していきます。ぜひ今後の記事もご覧ください!