【経営者インタビュー】師匠の教えを胸に、宮大工としての信念を貫く~有限会社匠弘堂~京都市左京区静市を拠点に、社寺建築の設計・施工を行う有限会社匠弘堂。2001年、宮大工棟梁として社寺建築に携わっていた岡本弘様(2015年逝去)と有馬茂様、そして設計士の横川総一郎様が3人で創業しました。匠弘堂様では『岡本棟梁の教え』が基本であり柱になっており、新しい世代にも受け継いでいます。創業についてのお話や、大切にしている想いを語っていただきました。

「うそ偽りの無い、本物のものづくりがしたい」という熱い想いから誕生した

【経営者インタビュー】師匠の教えを胸に、宮大工としての信念を貫く~有限会社匠弘堂~
−−創業の経緯についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

弊社は故岡本弘棟梁と一番弟子で福岡県出身の有馬茂、そして私の3人で創業した会社です。この3人が私の設計担当した現場で運命的に出会い、2001年匠弘堂が誕生しました。創業当時から掲げる「うそ偽りの無い、本物のものづくりがしたい」という信念は、今でもずっと持ち続けています。

宮大工は、100年200年と歴史をつなぐ大切な建物に関わる責任ある仕事。ですので、自分の持っている能力を最大限ぶつけ、高い技術と知識でお客様に品質の良い品物を提供したいのです。また、現在の所有者様である神社の宮司様や寺院のご住職様だけでなく、100年後や200年後の未来の所有者様にとっても、自信を持って良いと思える提案をしています。

岡本棟梁の教えを軸として会社を作っている

【経営者インタビュー】師匠の教えを胸に、宮大工としての信念を貫く~有限会社匠弘堂~
−−匠弘堂様で大切にされている想いを教えてください。

『見えるところは当たり前、見えないところほど気配りをせなあかん』という、故岡本弘棟梁の言葉を大切にしています。私は、新卒で大手家電メーカーの設計部門に入社しましたが、オープンな製品開発ができない点に幻滅したんです。

そこで出会ったのが建築設計であり、また歴史ある社寺建築を支える「宮大工」という仕事と、師匠と呼べる岡本棟梁。岡本棟梁は多くの実績がある優れた技術を持つ宮大工棟梁でありながら、おおらかな人柄で、人材の育成に尽力する人物でした。仕事に対する厳しさと情熱を持ち、誰にでも平等に丁寧に教える姿に心を揺さぶられ、私の人生が変わりました。

岡本棟梁のために何かを残したい。その想いから「記念誌」が誕生

【経営者インタビュー】師匠の教えを胸に、宮大工としての信念を貫く~有限会社匠弘堂~
−−「10周年記念誌 岡本弘棟梁の十二の教え」を発刊した経緯を教えてください。

弊社は、岡本弘棟梁の「十二の教え」を中心に会社作りをしておりますが、この教えをなにか形として残せないか、インパクトのある会社案内を作れないかと考えていました。本格的に記念誌の制作を考え始めたのは、匠弘堂が10周年を迎えるとき。当時は会社が軌道に乗っておらず、お金もない状況でした。しかし、岡本棟梁が年老いていくのを見て「師匠が亡くなる前に必ず何かを残そう」と思い、借金をして記念誌を作成したんです。

「記念誌」として冊子にしようと考えたのは、通常の会社パンフレットは薄いものが多く、お渡ししても無くされてしまうケースが多いから。厚さ7ミリ以上の背表紙付冊子にすることで簡単には捨てられにくくなります。すぐに捨てられず、ずっと手元に置いておきたくなるような、そんなものを作りたかったのです。完成するまでには1年以上かかりましたが、心から「作って良かった」と思います。

記念誌はお客様を中心に出会った多くの方に配らせていただきましたが、非常に反応が良かったです。岡本弘棟梁はもちろん、社員一人ひとりの写真や想いを掲載しているため、お客様から「匠弘堂は信頼できる」と言っていただけることが増えました。宮大工をはじめ手仕事の職人仕事は、“どんな人がどんな顔でどんな想いで作るか”が非常に大切です。それを冊子というモノで表現できたのだと思っています。

また、SNSでも記念誌を中心とした仕事に対する姿勢について発信していたところ、就活生にも匠弘堂の想いが伝わり、2023年度採用では30名もの学生さんからご応募いただきました。ほとんどの学生さんは「匠弘堂しか受けていません」という驚きの状況に。2023年度に採用した2名のうち、1名は東京大学の大学院卒で、もう1名が大阪府立大学の機械工学卒。想い先行の採用活動でしたが、それでもこれだけの人が応募してくれて、とても優秀な若者に選んでもらえたというのは、会社にとって未来が明るいと言えます。
※記念誌は以下のリンクからご覧いただけます。
10周年記念誌「宮大工棟梁 岡本 弘 十二の教え」
20周年記念誌「匠弘堂の仕事の流儀」

初心に返るために、社長自らがトイレ掃除をする

−−匠弘堂様には素晴らしい人材が集まっているとお伺いしましたが、どのような教育をしているのでしょうか?

新入社員には、理念浸透のために記念誌を必ず渡しています。岡本弘棟梁の教えを理解してくれれば、弊社が大切にしていることは伝わるはずなので。迷った際には記念誌を読めばほとんど解決できます。

また、週に1度は必ず私自らがトイレ掃除をしています。経営者を長く続けていると、驕り高ぶってしまうことがあるのではないかと考えているためです。宮大工としての初心に返るためにも、自ら進んで掃除を担当。そして、私には「トイレが綺麗な会社は良いもの作りができる」という信念があります。普段から仕事で多くの会社を訪問しますが、もの作りにも力を入れている会社は、やはりお手洗いも綺麗ですね。

信念を持ち、提言できる宮大工を目指す

【経営者インタビュー】師匠の教えを胸に、宮大工としての信念を貫く~有限会社匠弘堂~
−−今後の展望を教えてください。

自分たちの信念を持って、しっかりと提言できる「モノ言う宮大工」を目指しています。私でさえも、社寺建築の業界ではまだまだ若輩者扱いです。それでも、自分たちが持っている技術を心から信じているからこそ、時には「その道の先生」と呼ばれる方にも意見しなければいけません。なぜなら、一番現場を知っているのは宮大工だから。社寺建築の伝統を未来に紡いでいくためには、私たち宮大工が意見し、切磋琢磨しながらものづくりをする必要があるのです。

また、宮大工の仕事を通じて世の中に社会貢献したいと考えています。直近では2023年12月に、不登校の児童生徒向けにワークショップを3日間行いました。登校拒否の子どもたちに、「生きるための糧を感じてほしい」という想いから、ものづくりの仕事を直接体験してもらったんです。このワークショップは私たちが企画したわけではなく、お声がけいただいて参加したのですが、これからも世の中の役に立つ活動は続けていきたいですね。