本コラムは2021年7月号から2022年6月号までの1年間、月刊フューネラルビジネスに連載をしていたものを一部加筆修正し、まとめたものになります。
1. 葬祭業界における人材育成の重要性
死亡者数増加と共にずっと成長を続けてきた葬儀業界。しかし単価減少の影響もあり市場規模自体は横ばい(2018年成長率101%)とピークを迎えました。2020年からの新型コロナウィルスの影響により、企業ごとの格差はさらに広がったと感じます。
ライフサイクルが進む中で、家族葬特化型のビジネスモデルやDX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化、分業化による生産性の最大化など、様々なアプローチが出てきています。しかし、顧客接点部分が付加価値を生み出すことにはまったく違いはありません。むしろ、他の部分が同質化していくからこそ、人による付加価値の重要度は益々高まっていくはずです。
葬祭業において人材育成といえば、厚生労働省認定の葬祭ディレクター技能試験が最も一般的なものではないかと思います。お客様に葬祭サービスを提供するため、様々な技術を身に着ける事が出来るという意味では、とてもわかりやすく、また目標にもしやすいもの資格です。
また競争も激しくなっている現在の葬儀業界においては、お葬式サービスの提供部分だけではなく、事前相談から始まり、営業活動、イベント企画、アフターサポート、グリーフケアなど様々な業務範囲が生まれています。
これらを一人でカバーするという考え方もありますし、部門を分けて、専任スタッフを置き、
それぞれに成長サポートを行っていくという考え方もあります。これらはいわゆる「スキル」育成の領域になります。
一方、人材育成にはスキル育成と同様に大事なことがあります。それが「マインド」の育成です。マインドとは、モチベーションにも近い要素と言えますが、分解すると「理念・ビジョンへの共感×仕事のやりがい」と考えることが出来ます。
弊社では、経営者や社員のインタビューをさせていただくことが数多くありますが、本当にやりがいを持って働いているスタッフが多いと感じます。葬祭業という仕事の特殊性から、仕事に対して高いやりがいを感じる人が多いのがこの業界の特徴ではないでしょうか。さらに会社として、チャレンジする風土やお互いに助け合うチームワークがあればさらにやりがいは高まります。
一方、理念・ビジョンへの共感という観点ではまだまだ不足している企業が数多くあります。
それは、そもそも葬儀業界においても理念がしっかり構築されている企業がまだまだ少ない点、またその理念を根付かせるため活動が不足している企業が多いためです。
理念・ビジョンへの共感が不足しているとどうなるのでしょうか。
スキルが高まった人材は、さらに自分が活躍できる場所を求めて独立や他社へ転職してしまいます。なぜならば、その会社の理念や目指すビジョンに共感できていなければ、その会社にいる理由が存在しないからです。実際に施行におけるお客様からの評判がものすごく高いにも関わらず会社を去ってしまう人材を星の数ほど見てきました。
だからこそ、人材育成においては、「スキル育成」と同時に「マインド育成」がより重要な要素になってくるのです。
2.葬祭業における人材育成の仕組み
葬儀業界では、仕事の忙しさが読めません。大まかには冬が繁忙期になり、比較的暖かい時期が閑散期になるという傾向はあるものの、急に忙しい夏もあれば、まったく暇な夏もあるというくらい、毎年同じような動きにはなりません。
そのため極端に忙しくなったり、逆に極端に暇になったりということが発生することは珍しいことではありません。そしてそういった時こそ人材育成レベルが試される時だといえます。
特に極端に忙しくなった時には、スキル育成の面で大きな差が出ます。
その会社の1か月当りの受注件数の最大値は、担当ができるスタッフの人数で決まります。担当専任制を採っている会社であれば、1人当たりの1か月の受注件数の目安は5件。担当者が5人いれば、その会社は25件までは難なく対応できるはずです。ですが、30件を超えてくると仕事が重なり、一部のスタッフに長時間残業が発生したり、最悪の場合クレームも発生します。特に、表に出ないいわゆる「サイレントクレーム」と言われるものが実際に発生している現場を見たこともあります。これは結果として会社の成長に歯止めを掛けます。ですから会社としては30件を余裕で受けることのできる体制をいち早く作らなければなりません。この体制づくりに半年かかるのか、1年なのか、それとも2年かかるのかで会社の成長は大きく変わります。そしてその違いを生むのがスキル育成のレベルです。
つまり、スキル育成のレベルは、葬儀の最大受注件数の上限値に大きく影響し、如いては会社の成長スピードにまで影響を及ぼすのです。
スキルアップをどのように仕組み化するか
スキルアップの観点から考える人材育成とは、いかにスピード感を持って戦力化できるかが重要となってきます。ここでは、早期に戦力化し、かつ高い満足度も実現することで来ている葬儀社が実施している取組を3つご紹介します。
①動画マニュアル
これは業務内容を細分化し、動画によってマニュアルにすることです。例えば、搬送業務、枕飾り、納棺、打ち合わせ等、お葬式の最初から最後までを分解し、それぞれの項目で動画を作成します。動画にすることでより業務がイメージしやすくなり、隙間時間にスマホ等で確認することも可能です。繰り返し見ることが出来るためにスキルアップのスピードが上がります。またこのマニュアル作成においては、先輩社員が基本的にモデルとなります。実は知らないところで人によってやり方が違うということはよくある話です。人によっていうことが違う状態は、早期成長を妨げるものになります。動画マニュアルの作成は、社内業務の標準化という観点でも有効です。
②社内検定
先ほどの動画マニュアルの項目と連動し、社内検定を設けることも効果的な取組と言えます。検定というタイミングを設けることで、育成する側、また教育を受ける側にも明確な「目標」が出来ます。単なる「担当者デビュー」という大きな目標ではなく、そこにたどり着くための目標を細かく区切ることで、しっかりと成長を実感しながら進んでいくことが出来ます。
またこちらも重要な点は、一度合格したらOKという状況にしないことです。
実際に見積対応に合格したメンバーが翌年に同じ検定を行ったところ、まったくできていないという状況が分かったこともあります。いつの間にかに仕事が惰性になってしまっていた、また自己流になってしまっていた、そんなことを防ぐためにも、定期的に検定を行うと良いでしょう。
③育成計画書
そして最も重要なことが、入社したそれぞれのメンバーに対しての育成計画書を作ることです。人には誰しも得意不得意があります。長所も違いますし、覚えるスピードも違う。
つまり、1人1人の育成計画が同じであることが、必ずしも良いとは言えないということです。
これを実際に体現している葬儀社では、入社後育成担当者がしっかりとマンツーマンでフォローしながら、育成計画書を2人で決めていきます。
その中で何月に検定を受けるのか、何月に担当者としてデビューを目指すのかを決めます。その目標を、社長を含め上長と共有しながら全体でサポートを行っていきます。
これらはほんの一部の仕組みですが、このような取組を行っていくことで、スキル面の向上は目に見えて高まっていきます。
会社の基礎力を高めるマインド育成
成長スピードを高め、急に忙しくなった時の対応レベルに差が出てくるのがスキル育成の差であることを述べました。一方で極端に暇になったときにも人材レベルによって動き方に差が生まれます。
通常時の半分ぐらいのお葬式しかない、こんな月はどんな会社にも経験があるのではないでしょうか。
ある葬儀社にて、こんな質問をしてみました。
「お葬式件数が少なかった分、何かできましたか?」
と。ですが、特にこれといって新しいチャレンジが出来た形跡がありません。
本来は時間が空けば、ポスティングの枚数が増えていたり、社内研修に時間を費やすことが出来たり、またはイベントの企画や準備が進んでいてもおかしくないものです。
ですが、これができる会社とできない会社があります。これはスキルの問題ではありません。むしろ考え方の問題であり、これを私は「マインドの標準値」と呼んでいます。
生産性を意識した仕事をしているか、従業度が高く緊急度が低い仕事への意識が高いのか、そういった仕事に対する考え方の影響が大きくでてくるのです。
実際に「マインドの標準値」を高めるための取り組みを行っている葬儀社の事例をご紹介します。
①VMVワーク
これは会社が大切にする価値観を社内に浸透させるための取組です。価値観の浸透においては、最も重要な時間が「考える時間」を持つことです。その「考える時間」を多く持つことで社員は、その価値観を理解していきます。
ある会社では、毎月1回集まった際に、その会社の行動指針の一つをテーマに、全社員が3分間スピーチを行うという取組を行っていました。
初めのうちこそ後ろ向きの発言もあったり、3分も話すこともできず1分で終わってしまうような人もいた中で、半年も続けると話す内容も変わり、そして仕事に取り組む姿勢も変わってきたといいます。自分の言葉で考える時間を繰り返し持つことで、その理解度が高まったのです。
②表彰制度
表彰制度では、その項目づくりによって会社が大切にしていることが社員に伝わります。単価や担当者の売上を表彰する会社は、担当者における「売上」が重要項目と言えるでしょう。
リピートや指名施行数を表彰項目にしている会社もありました。それは、顧客満足や固定客化、お客様とのコミュニケーションを大切にしていることの表れでもあります。会社が大切にするValueと連動させている会社もあります。それぞれのValueを誰が一番実践できているかを社員投票で表彰する。MVPとして会社の価値観を一番実践できている人に社長推薦で表彰する。これらの実践によりマインドは大きく高まっていきます。
③経営方針発表会
これは多くの会社が行っていることではありますが、やはり重要度が高いものとして経営方針発表会の実施は欠かすことが出来ません。
ここで大事なことは、実施することではなく、その中身です。そこで「未来」が語られているかどうか、経営方針発表会においてはそれこそが最も重要です。直近の報告や翌年の計画だけではメッセージとしては弱くなります。
5年後、10年後、会社はどんなことを目指し、またなぜそれを行うのか。その未来に社員は共感し、それがやりがいの源泉となります。しかし一方で、未来を語ったものの、毎年内容が変わってしまうと、それは社員にとってマイナスにしかなりません。「結局、口だけだから」となってしまっては、マインドは決して上がることはないのです。
ですから、微調整はしても、そこに向かって進んでいくことはもちろん必須です。実際にこういった未来をしっかりと社員に届けている葬儀社では、その未来の事業に共感し、その責任者を目指し頑張っているスタッフもいるほどです。そして年を追うごとに確実にその事業に向けて進んでいます。その姿を見せることで、経営方針発表会に伝える未来の姿は、
より真実味の高いものとなり、それが社員一人一人のマインド育成にもつながっていくのです。
マインドの標準値を高める事とは、つまり会社への理解度、共感度を高めることと同等です。なぜこの会社があるのか、なぜこの仕事があるのか、といった考え方が深まるほど、通常の仕事に対する姿勢が変わってきます。
このように人材育成においては、スキル育成の観点とマインド育成の観点と、両方の視点がとても重要なものになるのです。
3.マインド育成が企業の成長を促進する
企業成長においてなくてはならない要素が「生産性」の向上です。これは社員1人が1時間当たりどれだけの付加価値を生んだかという指標ですが、これが高ければ高いほど企業は強くなります。
生産性は、本来2人でやっていた仕事を1人で行なうことや、2時間かけていた仕事を1時間で終えられるようになることでその数字を高くすることができます。デジタル化が大いに活躍する分野で、デジタルをうまく活用することで人手を使わずに業務スピードを高められます。日本においては働き手がどんどん少なくなっていくなかで、デジタルを活用した業務効率化は、なくてはならないものといえます。
とはいえ、そもそも葬祭業界においては、デジタル活用を検討する前に、簡単にできる生産性向上の取組みがあります。葬祭業界の特徴は前回も述べたように、いつ仕事が入るかわからない、仕事の忙しさの波が激しいということです。
葬祭業において、生産性を下げる一番の要因は、この暇な時間の動き方にあります。逆に言えばこの暇な時に付加価値を生み出す仕事ができればそれだけで生産性は上がります。
では、どうすれば暇な時間ができた時に生産性の高い動きができるのでしょうか。暇な時間にやるべき業務をあらかじめ準備しておき、空いた時間にやってもらうということはもちろん有効です。ですが、一番の理想は、毎回指示をすることなく、社員が自主的に生産的な動きができるようになることです。それを実現することために必要なことが、まさにマインド育成であると言えます。
ある葬儀社の事例をお伝えします。この会社では、少し時間ができると社員はすぐにポスティングに出かけていきます。この会社の社長は、「1件のお葬式を担当するのと同じ、もしくはそれ以上に、1件の事前相談をいただけることの価値はある」と事あるごとに話しています。
だからこそ、お客様とつながるための仕事をすることの価値を社員全員が理解し、いつでもすぐに行動することができる組織が形成されています。これが当たり前のようにできてくると、無駄な時間がどんどんなくなり、そして生産性も高まっていき、企業の成長につながっていきます。
生産性アップのコツ
ここで生産性にももう少し深く触れておきたいと思います。先ほども述べたとおり、今はDX(デジタルトランスフォーメーション)がいたるところで叫ばれ、生産性向上のためのツールとして活躍しています。また生産性を高めるための方法として、分業専任制への移行というものも最近はよく耳にするようになりました。これらは確かに生産性を高める方法論として有効です。ですが、これらも導入の仕方を間違えてしまえば、逆に生産性を下げる可能性もあるので要注意です。
DXとは、読んで字のごとく、デジタルに形を変えることです。労務関係をはじめ、顧客管理や情報共有など、あらゆる場面でデジタルの力が生産性を向上させていますが、これらはあくまでアナログでやっていたものをデジタルに形を変えるのが最初の一歩です。たとえば働き方の適正化や顧客管理、社内の情報共有がアナログの状態でもまったくできていなかった会社が、デジタルを導入したからといってできることはまずありません。
分業専任制においても、どんな企業でも当てはまるものではありません。施行件数がまだまだ少ない状況のなかで役割を分けた組織をつくってしまうと、必要以上に人手がかかります。結果として早い段階での分業専任制への転換は、生産性を落とす結果となります。
重要なことはDXにしろ、分業専任制にしろ、体制を移行する前段階で生産性が最大化できていることが大前提であるという点です。マルチタスクによって仕事の幅を広げる、暇な時に生産的な動きが自然とできるようなマインド育成を行なう、こういったことが当たり前にできてこそDXや分業専任制がより活きてくるものと言えます。
今すぐの成果に直結しない仕事に時間を割けるか
もう一点、生産性向上の観点で注意する点があります。1時間あたりの付加価値を示す人時生産性は、粗利額を総労働時間で割ることで算出されます。ですから粗利額を最大化するか、もしくは労働時間を最小化することで生産性向上は実現できます。ですから仕事が極端に暇な時、積極的に休みを取ってもらう、シフト調整によって生産性を高めることは可能です。ですが、ここには注意が必要です。確かに一時的に生産性は高い数字を示しますが、これでは企業成長にはつながりません。仕事の量に応じて、人を調整しているだけで、会社としての地力がついていないからです。
このような時に緊急度が低く、重要度が高い仕事に時間を割くことが出来るか、それがその後の成長につながるかどうかの違いとなります。先ほどのポスティングの事例のように、未来の仕事をつくる行動や教育等の人材価値を高める時間に使う。一時的には生産性が落ちたとしても、ここにしっかりと時間を割く。そのこと自体がマインド育成にもつながり、さらに永続的な企業の成長にもつながっていきます。
マインド育成の一丁目一番地とは?
マインドの育成においていちばんに目指すべきところは、1人ひとりが経営者意識をもつことにあります。経営者は、売上げの最大化、費用の最小化を常に考えるとともに、長期的な経営ビジョンをもち、目標に向かって進むことが必要不可欠です。社員1人ひとりが、短期的視野ではなく長期的な視野をもち、高い利益意識をもつことができたら、これほど素晴らしいことはないでしょう。
とはいえ、そのような人材を一朝一夕に育成することはできません。会社に入社し、基礎的なことから一段一段ステップを重ねることで、そのようなマインドが醸成されていきます。
では、経営者意識を育んでいくうえでの一丁目一番地、つまりスタート地点はどこにあるのでしょうか。
結論から申し上げると、それは「仕事のやりがい」を感じる機会をもつことです。具体的にはお客様からいただける「感謝」にどれだけ早く接することができるかが初期のマインド教育においては最も重要です。
先日、新卒で葬儀社に入社して1年が経った社員さんから仕事のやりがいについてお聞きする機会がありました。その方は、「いまがとても楽しい。会社に行く時間が楽しみで仕方ない。」と話されていました。「入社したばかりの1年前はどうでしたか?」と聞いてみると、当時は仕事をするということ自体にも後ろ向きの気持ちが大きかったそうです。
この変化はどのようにして生まれたのか。この会社では、早期育成プログラムを準備しており、入社して成長が早い子では3か月、遅くとも6か月くらい経つと葬儀の担当をもちます。最初は先輩社員に聞きながらも自身が責任者としてお客様とやり取りする機会をもつようになります。その結果、お客様からいただく「ありがとう」の重みを体感できます。それが大きなやりがいとなって驚くほど仕事に前向きに取り組めるようになります。そしてこの社員さんはいまでは、葬儀施行の仕事だけではなく、採用活動や広報活動にも意欲的に取り組んでいます。まさに生産的な活動に時間を十分に費やすことができています。
仕事のやりがいを早期に体験してもらうことによって、マインドはしっかりと高まり、生産性向上につながる。結果として企業成長にもつながる好循環が生まれていくのです。
4.マネージャーの成長が企業成長を加速させる
社長の仕事というのは、会社のステージによってさまざまに変化していきます。社員数10名以下のような会社では、社長は現場の第一線に立ち、担当業務を数多くこなすこと。先頭に立って売上を作る、いわゆるトッププレーヤーとしての役割が大きいはずです。
10名を超えてくると、徐々に担当業務は現場スタッフに任せるようになり、仕事もマネジメントに移行。さらに人が増えていく段階では、採用活動や教育の仕組みづくりが必要になっていきます。
30名近くにもなってくると完全に担当業務からは離れ、経営者として「投資」に重点を置く必要があります。設備投資だけではなく、人材に関する投資、販促に関する投資の判断をし、実行していく。その為に金融機関との交渉も必要でしょうし、様々な外部プロフェッショナルと協力しながら戦略を練ることも増えてくるのではないでしょうか。
このようにして社長は企業の成長と共に、経営者ならではの仕事に特化していきます。それゆえに、社長が担っていた役割をマネージャーが担っていく必要が出てきます。
社長が現場を離れた時に、代わりにマネジメント業務、人材育成を行ってくれるマネージャーの存在がいるかどうかで、10人から30人へのステージに上がるスピードは変わり、またそれ以上になるかどうかも、安心して任せることのできるマネージャーがいるかどうかで大きく変わります。なぜならば、そこで任せられる人材がいなければ、社長はいつまでたっても現場マネジメントに従事しなければならず、それ以上の成長に向けてやるべきことに時間を割くことが出来ないからです。
マネージャーがぶつかる壁とは
しかし、多くの会社においてこのマネージャーの成長が企業の成長に追いついていない、また企業成長にストップをかけてしまうという状況を目にします。
社長が会社のステージによって役割が変わったように、マネージャーにとっても役割は変わってきます。最初はトッププレーヤーである必要があり。エースとして活躍する。そして徐々に育成を覚え、マネジメント能力を高め、チームを動かす力を身に着ける。自分でやる側から、仕組みを作る側に役割を変え、様々な仕組みを整えていく側に移行します。
これが理想的なマネージャーの成長ステップです。しかしこのようにスムーズに成長を実現できることはできません。それには4つの要因が考えられます。
(1)育成の仕組み不足
規模が大きくなっていく過程の中で、ほとんどの会社では担当者になるための教育の仕組みは作られていきます。ですからどの会社も担当者になるために困ることはほとんどありません。ですが、その後にマネージャーとなるための教育体系や育成システムが構築できている会社は圧倒的に少なくなります。
プレーヤーとして高い成果を上げていた人、また面倒見がよく、なんとなくマネジメント能力が高い人が、それだけの理由でマネージャーとなった場合、何をやるべきかどうかがわからないため、結果「役職が変わっただけでやっていることが変わらない」状態が起きてしまうことがあります。
社長がしっかりとマネジメントに関する教育や数値管理に関する教育を行うことが出来ていれば問題ありませんが、その部分がおろそかになってしまうと、やはりマネージャー層の成長がストップしてしまいます。
(2)成長の機会不足
私の前職時代には、エンディング業界の経営者様向けに経営セミナーを数多く行っていました。前職企業だけではなく、業界の中には様々な経営セミナーがありますし、フューネラルビジネスフェアのような展示会もあります。そんな場所に行くと、顔を合わせる経営者様はいつも決まっています。そしてそういった会社はやはり成長しています。
外からの情報を積極的に社内に持ち帰り、それを経営に活かすということが出来ているのでしょう。会社だけではなく、社長自身も成長していることは間違いありません。
一方、そのようなセミナーや展示会に、毎回顔を合わせる「マネージャー」というのは、多くはありません。それはつまり成長の機会を得ることが出来ていないということになります。
マネージャーの育成は社長がするもの。そのように考えれば外に出る必要はないと考えるかもしれません。ですが、マネージャーとなる人にとって重要なことは「自らで考えて創る力」。自分で仕入れた情報を自分で考えて落とし込むという機会を増やさない限り、この能力は高まりません。
(3)刺激しあう同志不足
社長には、社長同士のコミュニティが存在しています。前職の船井総研が主催しているような経営者研究会や交流会のような機会も多くあるでしょう。その中で、取組事例を学び持ち帰るということはもちろん重要ですが、そういったコミュニティでの仲間の存在自体が大きな意味を持ちます。
あの会社が成長しているから、自分のところも負けてられない。
といった形で、仲間の企業が成長をしているだけで、自分たちが成長するための理由になります。そういった刺激を受ける機会が、マネージャー社員には圧倒的に不足しています。横のつながりを作る機会も多くありません。それゆえに、現状満足という状況になりやすいのです。
会社によっては、あえて外に出さないというスタンスの会社もあるようです。必要のない情報を仕入れてきたり、他社がやっていて自社がやっていないことが困るといった理由を耳にすることがありますが、それはあまりにもったいないことです。むしろ他社から悪い影響を受けてしまったり、他社と自社の不必要な比較をするのだとしたら、その段階でマネージャーの人選と育成に失敗しています。
(4)自身の認識不足
先ほどお伝えしたようにマネージャーになれば求められる役割が変化していきます。例えば担当を持つ件数や売上についても、一番多くの件数を持ち、一番高い売上を作っていることで満足している人を時々見かけます。プレーヤーとしてはもちろん素晴らしい成果ですが、マネージャーの仕事としては適切ではありません。
マネージャーの役割は、より多くの担当を持ち、売上を作ることのできる人材を育てることであり、自分自身でその数字を作ることではありません。
マネージャー育成事例
では、実際に右腕となる優秀なマネージャーを育てている葬儀社では、どのような取組をしているのでしょうか。様々な仕組みがある中で、今回は次の5つの取り組みをご紹介します。
①VMVリブランディング
会社にVision、Mission、Value(VMV)を改めて考える。企業規模が20名を超える段階で実施。その考える過程を通じて会社理解を深め、自身のVMVと会社のVMVを一致させていく活動。
②新卒採用プロジェクト
社内でプロジェクトチームを組み、1年間かけて新卒採用を行っていく。単に採用を行うというだけではなく、自社にとっての適切な人材、伝え方、学生との関わり方を通じて、会社の強みを発見。プロジェクトマネジメントも学ぶ。
③未来構築合宿
幹部となるメンバーと経営者と共に合宿を行う。それぞれのビジョンについて共有・理解し、会社としての方向感を議論する場を持つ。会社への理解度が大きく高まると同時に、モチベーションも向上する。
④マイスター制度
若手社員向けに対して、マネージャー自らが講師となり、テキスト作成、研修実施を行う。経営計画から逆算し、企画立案を行い、実施する。プランニングの力とプレゼン力が養われる。
⑤プロジェクト型教育研修
社内で実践している様々なことをプロジェクト化し、チームで実行していく。目的意識からブレずに進める力、ファシリテーション力、そしてマネジメント力を高める。
以下に詳細をお伝えしていきます。
5.VMVリブランディングによるマインド醸成
葬儀業界の市場規模はほぼピークになりました。これから単に営業を続けるだけで企業が成長する時代は終わりを迎えています。一方でインターネットからの葬儀は、これからも益々増えていくはずです。これだけインターネットが当たり前になり、スマートフォンが生活の一部となる中で、この市場が同じように成長が留まるとは到底考えられません。
さらに、これからM&Aも益々進むでしょう。
何億というお金を使って会館を作り、新たにエリアを営業活動によって開拓する。それよりももともとその地にあった葬儀社を買収してしまう、その方が早いとM&Aを考える企業がいることも、これも何ら不思議なことではありません。
つまり、市場はピークである一方、競争はまだまだ続くわけです。しかも相手はインターネットだったり、大手資本の企業なのです。
「安さ」で戦えば、インターネットの葬儀が強い。そこの下をかいくぐって安さ訴求をすることもできますが、その必要性はあるのか?
「豪華さ」には資本力を持つ企業がやはり強くなる。そしてこれまでも葬儀社選択の一番多い理由でもあった「近いから」という点も、資本力がある会社が出店攻勢をかけてくれば、安泰ではありません。
値段や距離、建物ではない、
「私は〇〇葬儀社が好きだから、そこでお葬式をしたい」
と言ってもらえること。
そんな葬儀社になっていかなければ、どんどん施行件数は落ちる一方になってしまう可能性があるのです。
「選ばれる理由」を磨きあげるために
「選ばれる理由」を磨きあげるために何をすればよいのか。企業戦略として考えるべきことは、まさにCI戦略です。CIとは、Corporate Identity(コーポレート・アイデンティティ)の略で、まさに企業の独自性を高めるための取組です。
CI=ロゴといったようにとらえられてしまうこともありましたが、この独自性を高める活動には大きく分けて4つのステージがあります。
①大切にする「考え方」を決める事(Mind Identity : MI)
いわゆるビジョンやミッション、バリュー(VMV)といった企業の「考え方」にあたる部分です。企業活動において、様々な判断をすることがあります。それは投資に関するものから人材育成に関する現場の話まで様々です。その判断の「基準」となるものが、ここでいうMIになります。これがしっかりと固まっていないと、全ての判断がバラバラに行われ、社員にとっても、またお客様から見た時も何も統一されていない企業に見えます。それでは、選ばれる理由が磨かれることはありません。
②どんな事業をするかを決める事(Domain Identity : DI)
これは事業ドメインを決める、つまりどんな事業を展開するかという部分です。企業としては、儲かる事業にとにかく参入する、という選択もあるでしょう。一方でそれは「何のために」が見えません。選ばれる理由を磨くためには、「共感」が重要な点であることを考えると、判断軸を持った事業展開であることがベターです。つまり、MIを基準とした事業を展開すること、それが大切になると言えます。
③伝え方を統一する(Visual Identity : VI)
ここでロゴやパンフレット等の広告物、ネーミングといった外に発信するものが重要になります。多くの商品を喚起させるものは、消費者と接点を持つVI活動がとても重要です。ただし、VIにおいても重要なことが、しっかりとMIと連動しているかどうかです。例えば、ビジョンやミッションといったものに「感動」という言葉を掲げている会社が、広告物では赤と黄色が強い“安さ”訴求をしていたらおかしいですよね。
もちろん価格訴求をすることは、お客様に選んでもらう理由としては大きな要因です。ですが、MIとVIが連動していないと、選ばれる理由を「磨く」ところには至らないのです。
④社員の行動やコミュニケーション指針を決める(Behavior Identity: BI)
その上で企業内での品質をどこに定めるか、社内の教育研修の在り方、評価制度、そしてお客さまとのコミュニケーション指針といった、行動部分の考え方を固めていきます。もちろんこれもMIに連動して作られていきます。
こうやって会社の考え方を中心に、事業、伝え方、行動を統一、さらに徹底することにより、その考え方がお客様の共感を生み、「選ばれる理由」が磨かれていくのです。
ビジョン、ミッション、バリューをリブランディングする
これまで100社を超える葬儀社様とお話をしてきた中で、それぞれの会社で様々なビジョンやミッション、バリューがありました。葬儀という業界の特性もあり、「感謝」「ありがとう」「感動」といった言葉はよく目にします。
よく目にするから違うものにした方が良いかと言えば、そんなことはありません。大事なことはそのビジョンを本気で目指すことができ、そのミッションを本気で追求できるかどうかです。ビジョンやミッションそれ自体が、他者との差別化になるのではなく、その浸透度合いこそが差別化になるのです。
ですが、ビジョンやミッション、バリューにおいても見直すことは意味があります。特にここ数年、葬儀業界も事業承継のタイミングとなり、経営者が交代しています。先代が作ったビジョンやミッションについては、再度見つめなおす必要があります。
特に、葬儀業界は転換点を迎えています。業界が成長期にある中で、積極投資で成長を続けてきた先代と、これからの時代を冷静に見ながら経営を行っていく後継者とでは、大切なことが違ってきても全くおかしなことではありません。
会社の判断軸として大切にするものだからこそ、改めて考え直すということも非常に重要なことです。
~リブランディングプロジェクトの進め方~
1.プロジェクトチームの生成
まずはチーム作りからスタートします。リブランディングすることを目的に、参加したいメンバーを有志で募ります。あくまで強制ではなく有志で募ることが大事です。
2.ディスカッション
メンバーが決まったのちにディスカッションをスタートします。「なぜこのビジョンを目指すのか?本当にこのビジョンでいいのか?」「ミッションとして掲げるのは、この言葉でいいのか。今やっていることと違いはないのか?」「私たちが大切にしている価値観はこれでよいのか?もっと加えた方が良いものはないか?」など、様々な議論を行います。議論は2週間に1回程度を目安に行います。
3.見える化
新たに出来上がったものを見える化します。文字として残すことはもちろん、クレドカードやカンパニーブックのようなものに落とし込んでいきます。その過程の中で、改めて言葉にこだわり、VMVを形にしていきます。
4.浸透フェーズへ移行
形になったものを全社に広げていくフェーズに移ります。プロジェクトチームメンバー一人一人がリーダーとなり、メンバーに展開していきます。
この過程の中で重要なのは、参加メンバーがより会社のことを理解するということです。有志で募るメンバーであるため、そもそも参加メンバーは未来を支えてくれる重要なメンバーです。そのメンバーで、会社の使命や未来をディスカッションする、その時間はマインドを大きく高めてくれます。さらにそこで見える化されたVMVは、それから先のファン客、ファン社員を作るうえでなくてはならないものとなります。
VMVリブランディングは、会社の未来の土台を作り直すと同時に、マネージャーマインドを大きく高めてくれる取り組みです。
6.新卒採用プロジェクトによる企業力向上
エンディング業界において新卒採用の取り組みは一般的ではありません。新卒採用の媒体として多くの学生が登録している媒体において「葬祭業」の登録企業数を調べてみると、マイナビ2022では50社、リクナビ2022では39社しかいません。(※2021年10月中旬検索次点)この数は業界全体で考えれば、1%にも満たない数字です。このような大手の採用媒体に掲載するだけでも数十万の費用が掛かることもあり、取り組む企業が少ないのではないかと思います。
しかし、ご支援先の葬儀社様は、年商3億円を超えた頃に新卒採用の活動をスタートしました。その社長曰く、これまで取り組んだ様々な施策の中で、最も企業として、そしてメンバーの成長を実現できたのが新卒採用プロジェクトだったといいます。
新卒採用プロジェクトによって生まれるベネフィットを整理すると、次のようなものがあげられます。
①自社のことが理解できる
新卒採用の活動を始めるにあたり、最初に行うことが「どんな人材が欲しいか」という点を決めることにあります。そしてそのためには、そもそも自社がどんな会社で、どんな人材が活躍できるのかを考えていく必要があります。
さらに、学生には自社に興味を持ってもらわないことには、応募者が集まりません。そのために、自分たちの会社はどんな強みがあって、何が得意なのか、どんないい会社なのかを整理していく必要があります。その活動自体が、参加メンバーの会社理解を深めてくれます。
②プレゼンテーション能力が高まる
新卒採用の場面においては、合同説明会や会社説明会の場面で学生の前で話をする機会が生まれます。決まった時間の中で自社のことをプレゼンする、その機会を通じてプレゼンテーションの力が高まります。
普段の仕事の中でも事前相談やお打ち合わせの時間は、お客様からのご要望を聞く力はもちろん、自分たちのコンセプトや想いをしっかりと伝えることも重要です。そういった伝える力を磨く機会にもつながります。
③メンバーマネジメント能力が高まる
新卒採用活動は、長期間にわたって行うものになります。取組を始めてから、内定を出した子が入社してくれるまでには、1年以上の期間がかかることもざらにあります。
だからこそ、リーダーとなるメンバーには段取り力やメンバーを上手に動かすマネジメント力が求められます。会社の右腕となっていく人材においてなくてはならないプロジェクトマネジメント力が実践を通じて身についていきます。
またお葬式の場面では失敗はすることが出来ません。ですが、新卒採用活動においては、さまざまなチャレンジが可能です。そういったトライ&エラーを通じて、新しいものを作り上げていくことのできる経験は、とても貴重なものとなります。
④教育の意識が高まり、仕組みが出来上がる
採用活動に携わったメンバーは入社してくる学生に対して想いが入ります。ある意味自分が入社させたメンバーだからこそ、教育に対してしっかりとした意識を持つことが出来ます。
さらに、葬儀社において「教育のための仕組み」というのはなかなか進みにくい現状があります。それはどうしても人員をギリギリの状況で経営をしていたり、また古くからの見て覚えたりといった教育の在り方が染みついていることも要因として考えられます。
ですが、新卒採用を行うと、教育に関する質問を山ほどされます。さらに内定が決まり、入社することになれば、教育の仕組みがないでは通用しなくなります。それゆえに、教育体制がある種強制的に進むようになります。
実際に先に挙げた葬儀社においても、新卒採用プロジェクトを通じて教育マニュアルが出来上がり、それ以降新卒、中途に関わらず、担当者となるまでの育成期間が大きく縮まりました。
⑤組織の成長戦略が立てやすくなる
新卒採用活動が当たり前になってくると、定期的に4月の時期に入社してくる人材の数が読めるようになります。来月、再来月の話ではなく、6か月先、1年先の話でもあるため、逆算して組織を考えることが出来るようになります。
どのくらいの成長を実現するために、誰が、どのくらい必要かを必然的に考えるようになり、組織における役割も作られていきます。
新卒採用によって事業だけではなく、組織の成長戦略も描きやすくなるのです。
新卒採用プロジェクトの実践方法
実際に新卒採用プロジェクトは次のような手順を追って実践していきます。
①プロジェクトチームの生成
まずはプロジェクトチームを作ります。大事なことは、そもそも会社として新卒採用に取り組むこと、その重要性を共有化した上でチームを作るということです。新卒採用活動が業務負担になっては意味がありません。会社のより良い成長のためになくてはならないものであるというメッセージをしっかりと伝えることが重要です。
(逆にそういった想いを持てないのであれば、新卒採用プロジェクトはお勧めできません)
②ペルソナ設定&マーケティング計画
プロジェクトメンバーで、自社の強みや特徴を整理し、求める人材像を固めていきます。さらに事前相談獲得のためのマーケティング計画を決めるように、採用活動に関するマーケティング計画を決めていきます。どんな媒体を使うのか、そのためにどんな費用が掛かるのか、それらをしっかりと決めていきます。
③採用活動
会社説明会、面接といった採用活動を行います。学生とのやり取りはもちろんのこと、説明会資料の作成やプレゼンテーションの実施、面接の実施を行っていきます。
どんなことを訴求したらよいのか、どんな説明会にしたらよいのか、面接では何を見て、そのためにどんな質問をするのかもメンバーの中で固めていきます。
④フォロー活動
新卒採用は、内定を出してから入社までの期間が中途採用に比べて圧倒的に長くなります。それゆえに、その間のフォローが必要です。単なるコミュニケーションではなく、入社前の期間を通じて、どんな機会に触れてもらい、どんなことを学んでもらうのか、どうやってエンゲージメントを高めるのかを決めて、実践していきます。
プロジェクト化することの意味
ここで改めてお伝えしたいことは、新卒採用においてはプロジェクト化することが重要であるという点です。新卒採用活動自体は、例えば人事担当者が一人いれば、あとは大手採用媒体とやり取りして進めていくということはできなくはありません。
プロジェクト化することの意味は、新卒採用によって人を増やすという意味だけではなく、そこに携わるメンバーの成長を実現する、組織としてより強くなるための取り組みになります。
ですから、これらは「採用費」であり「教育費」でもあります。そういった観点での投資として新卒採用プロジェクトを実践すると、リーダーとなるマネージャーは大きく成長するだけではなく、組織としてもワンランク上のステージに成長できるのです。
7.未来を描く幹部合宿のススメ
弊社のご支援先の葬儀社では、年に1回、幹部メンバーとともに1泊2日の合宿を実施しています。毎年プログラムは若干変えていますが、基本的な趣旨は「未来について理解を深める」時間を作る場所としています。
緊急度は高くはないが、重要度が高い、いわゆる「第二領域」と言われる部分についてじっくりと話をする機会を作っています。
ここで話をすることは、来月、再来月のマーケティング施策ではなく、5年後10年後の会社の在り方、それを支える人材、どのように成長をサポートするのかといった内容です。1日かけてそのことだけについて議論し、プランを作り上げていきます。
企業は経営者で99%と決まるといわれるくらい、経営者が描く未来は重要です。経営者が描いた通りの未来にしか会社は進んでいきません。そしてそれを支えてくれる社員が多ければ多いほど、その実現可能性は高くなり、達成のスピードは速くなります。
幹部合宿を通じて未来を共有し、また理解を深めることで会社へのコミットメントがとても強くなるのです。
幹部合宿を行うメリット
やることが明確であるならば社内会議でもできると思うかもしれません。ですが、社内でのロングミーティングを行うことと、社外で合宿を行うことでは、その成果は大きく変わってきます。合宿を行うことのメリットを整理すると次の3つがあげられます。
集中できる環境
会社にいると様々なお客様対応が入ります。社員からすると、会議中とはマネージャー、社長が近くにいる状態、すぐに判断を仰ぎたいことで質問が投げかけられます。また金融機関や取引先などの問い合わせも入る可能性もあり、話が中断する可能性が高くなります。厳密にいえば緊急ではないものもありますが、お客様関係やすぐに対応した方が話が早いという案件については、どうしてもそちらに時間を割いてしまいます。結果として第二領域の話が進みにくくなります。
合宿という場で、まったく会社から離れた場所を使うことで、こういった案件に追われることがなくなります。それゆえ、しっかりと第二領域の話をすることができるようになります。
議論が活性化する
合宿を行う際の大事な点の一つが場所選びです。おすすめは、その場所自体が学びになるような場所で行うことです。過去に実際に行った場所には、流行が始まったころにグランピング施設を実際に利用してみたり、古民家風の建物で地域との連携を上手に進める旅館へ泊ってみたり、サービス品質が高いといわれるホテルを使用したこともあります。そのどれもが使用するだけで気づきが得られるような場所です。そういった場所で行うことで議論が活性化しやすくなります。
心理的安全性が高まる
永続する組織において重要とされる心理的安全性。これを高めるためには、話しやすさや助け合える関係性、挑戦できる環境、新しいものを受け入れる多様性などが重要な要素とされています。
合宿という機会は移動時間、食事時間、雑談・休憩時間、など普段の仕事とは違う様々な場面が存在します。その中で仕事では見られなかった一面に出会ったり、普段とは違うコミュニケーションが発生したりします。そのことによって話しやすさや関係性が育まれ、心理的安全性が高まることに繋がります。
幹部合宿の実践方法
とはいえ、まだ合宿など実施したことがない企業も多くあると思います。これから合宿を初めて行う際のコンテンツ作成のポイントを整理してお伝えしていきます。
①中長期ビジョンの立案
そもそも合宿の一番の目的は、会社の中長期ビジョンと幹部の方向感を合わせることです。そのため会社の中長期ビジョンが形になっていることが前提となります。数値計画だけではなく、会社としてどんな会社を目指すのか、これからの重点方針はどうするのかといった絵を描くことから始めます。これらはよりメンバーと共有しやすくするために、絵にしたり、映像にしたりするとより効果的なものになります。
②ビジョン共有ワーク
事前に描いてきたビジョンを共有した上で、幹部陣にも意見を出してもらう時間を設けます。その際特に制限を設けず、素直に自身が感じたことをフリーディスカッションしてもらいます。どうやってビジョンを達成するかの計画を詰めるよりも前に、そもそもそのビジョンへの「共感」を高めることが重要です。ディスカッションを踏まえ、全員が同じようにワクワクできて、同じ目標を持って進めることのできるビジョンへの進化をさせます。
③個人ビジョン立案ワーク
一方で、幹部メンバーの個人個人のビジョンを描く時間を設けます。ここで重要なことは、『会社の中でどのようなビジョンを描くか』という前提を持たないことです。
メンバーシップ型の雇用形態が弱くなり、特に若い世代を中心に一つの会社で働き続けるという価値観は変化してきています。
これからの時代は会社の中でどう成長するかを描くのではなく、自分がどのように成長したいか、その中に会社がどう存在するのか、ということを考えていく必要があります。
経営者は個人個人が描くビジョンがどのようにして会社の中で実現できるかを考えることが、永続する組織創りには大切な要素となってきます。
④具体的戦略立案
ここまで来て初めて、来期以降の具体的な戦略の話になります。ビジョン共感を行い、個人個人がキャリアプランを見つめなおす。それぞれの未来が同じ方向を向いた段階で初めて具体的な施策の話になります。
特に具体的な戦略の話は、普段の会社の中でも十分にできるからこそ、合宿ならではのコンテンツとしてビジョン共感の時間を大切にしたいものです。
合宿は成長スピードを加速させる手段でもある
これまでお伝えしてきたようなプロジェクト化で実施している中身を合宿にて行うこともあります。VMVのリブランディングは、社内にプロジェクトを置き、3ヶ月~6か月の期間をかけて作っていくものですが、これらを合宿という形で行うこともできます。時間を大きく圧縮することで議論の密度をより深めることが可能になります。結果として幹部陣の意識レベルも短期間に上がるようになります。
8.教育制度が会社を強くする
前職での経営コンサルティングを行っている頃から何百社もの葬儀社様とお会いしてました。2,3人で経営をされている会社から社員数数百名を超える企業までと、その規模も様々です。
企業規模が大きくなってくると同時によく耳にする課題が、この連載でもメインテーマの一つとして取り上げている「管理職不足」というものです。ですが、ほとんどの会社では、管理者が不足するのはまさに必然となっているように感じます。
それはほとんどの企業において、教育の大部分がOJTで占められているためです。いわゆる現場型教育。葬祭ディレクターになるために現場経験を積み、その中で知識を吸収するという形です。マニュアルの整備というものがしっかりと進んでいる会社も出てきていますが、それもまたディレクターになるためのものがほとんどです。
プレーヤーとして高い売上実績やお客様からの満足度評価、それらが積み重なり一部の人が「管理職」となります。しかし、その過程の中で管理職としてやるべきことを学ぶ機会はほとんどありません。結果、まずは役職についてから、まさにOJTの中でやるべき力を身に着けていきます。ですが、モデルとなる社員も少ない、マニュアルもない、学ぶ機会がない中で、本当に力のある人のみが「期待のマネージャー」として育ち、会社としては「管理職不足」という状況に陥ってしまうのです。
そもそも教育投資が少ない日本
これは葬儀業界にのみ言える課題ではありません。そもそも日本という国がいわゆる「Off-JT」といわれる能力開発に力を注がず、OJTを中心とした教育体系で成長を遂げてきた国です。
厚生労働省の算出している統計データによると、国内総生産に占める企業の能力開発費の国際比較を見ると、アメリカは2%を超えるのに対し、日本はわずかに0.1%しかありません。データは数年前のものですが、それほど大きな変化があるとは思えません。
これを企業に置き換えると、例えば年商3億円の企業があった際に、アメリカの企業では600万円が能力開発費に使われている。一方日本の企業では、わずか30万円しか使われていないということです。
その結果労働生産性を比較すると、アメリカと日本では1.6倍もの差が生まれています。(※2019年OECD調べ)
もちろん能力開発費が労働生産性の差をすべて生み出すわけではありません。テクノロジーの違いや規模の経済も大きく影響を及ぼすことは言うまでもありません。ですが、間違いなく言えることは「人的資源に対する投資意識」が明確に違うという点です。
先に挙げたOJT主体の教育体系というのは、現場第一であり、お客様第一であるとも言えます。ゆえにOJTがよくないというわけではありません。
ですが、「管理職不足」という課題に向き合ったときには、OJTだけに頼ることのない、マネージャーを育てるための教育制度が必要不可欠になるのです。
教育制度はビジョンから作られるもの
能力開発の一つの例は研修です。ですからマネージャー育成が課題ならばマネージャー研修を実施しようというのは一つの取組としては間違っていません。ですが、外部にあるような「管理者研修」は一時的にはプラスにはなるものの、中長期的に見れば成果につながりません。それは研修の内容が会社の目指す方向と一致していない可能性があるからです。
極端な例をお伝えするならば、例えばとにかく売上拡大に比重を置く、スピード感を最重要項目に置く会社にとって、マネージャーに最も求められる能力は売上アップの力です。営業やマーケティング、目標管理制度が必要となるはずです。一方、エリアの拡大を目指さず、エリアの中で既存のお客様にとって必要なサービスを増やしていきたい会社においては、むしろ事業開発の力が重要になります。デザイン思考やビジョン思考、ロジカルシンキング等の力が求められます。
これらは極端な例ですが、その会社に必要な人材はその会社のビジョンから逆算されるべきであり、それに応じた教育制度の構築を行わなければ、無駄な教育投資となりかねないのです。
実際に教育制度を一緒に作り上げている企業様の事例をご紹介します。
中長期ビジョンの構築・共有
まずは会社の中長期ビジョンを形にしていきます。これがどんな時もスタート地点になります。数字をベースとした事業計画を作り、それに連動した人材計画も作ります。そこには、いつの時点で、何人の社員が必要で、それはどんな組織図を描いているのかを記載してあります。実際に私がお手伝いしている葬儀社様でも5年先までの組織図ができている企業様がいらっしゃいます。
組織図から必要な役割を抽出する
5年先の組織図には、今はない役職や役割が描かれていることがあります。また事業拡大していけば、店長・館長といった人材の数も必要になってくるでしょう。既存エリアだけの展開なのか、または新規エリアに大きく広げていくかでも必要とされる能力が変わります。5年先を見据えて必要となる役割をこの段階ですべて洗い出します。
必要なスキルの整理
ここで役割を洗い出した際に、それぞれの役割に求められるスキルをすべて洗い出していきます。例えばある葬儀社様で複数の店舗を統括するエリア長に必要なスキルとして、13個のスキルが挙げられました。例えば「時流をキャッチする力」。この会社はエンディング業界に拘った事業展開を掲げていません。むしろ異業種をどんどん付加していくことを考えています。それゆえに、エリア長クラスに、自分たちの会社、エリア、業界だけではなく、いろんなところに視野を持っておいてほしいという思いがありました。
また「部下のキャリアデザイン力」も掲げています。社員同士のエンゲージメントが高い同社では、上司は部下の成長サポートすることが何よりも重要です。単に仕事を教えるだけではなく、その人のキャリア、人生全体をサポートできる力を求めているからこその必要スキルです。
このようにしてビジョンから組織図、そして組織図から逆算されて必要なスキル要件が整理されていきます。
研修・プロジェクト設計
ここまで落とし込んで初めてどのような能力開発プログラムを実施するかを考えていきます。研修形式のものの方が良いのか、もしくはこれまでの連載でお伝えしたようなプロジェクトを発足し、プロジェクトリーダーとして学びの機会を提供するのか。マニュアルの作成によって知識をカバーするのか。その方法論は様々です。能力開発費の2%という数字を一つの目安としながら、必要なスキルを取得する機会を提供する。
この一連の流れによって設計された教育制度は、しっかりとその力が身につけば自ずとビジョンの実現に向かっていくのです。
実際にビジョンからつながる教育設計を行い、リーダー研修を実施している葬儀社では、リーダーの意識・行動が変わり、それが目に見えて業績向上につながっています。今年経営方針発表会で掲げた重点施策への取組もものすごいスピードで実施できています。
教育制度については規模が大きくなってきた企業ほど、ぜひ大切にしてほしい仕組みの一つです。
9.後継者を計画的に育成する
サクセッションプランとは、後継者育成計画のことを指します。経営者、経営陣となりうる後継者の育成をどのようにしていくかということが本来の意味ですが、ここでは広義にとらえ、幹部育成計画としてお伝えしていきます。要するに、1年後のリーダー、3年後のマネージャー、10年後の経営幹部は、今の時点で準備ができているか?ということです。
会社の成長を支えるのも、成長に歯止めをかけるのも人材できまるといっても過言ではありません。現場でお客様満足度を実現する担当者、それらのメンバーを支えるマネージャーの存在、働きやすい環境を作る経営幹部、それらが『永続的』に繋がることで会社はしっかりと成長することができます。
この『永続的』という観点こそが、人材戦略を考える上では非常に重要となる点です。今現在を見れば、プランナー、ディレクター、マネージャー、経営幹部それぞれは十分に機能しているとしても、5年後同じメンバーで同じように組織が運営されているとしたら、その企業の成長はありません。それは間違いなく衰退している状態です。
5年後には違うメンバーがきちんとそれぞれの役割を担える状態になっていることが理想のはずです。ですが、比較的すぐに成果につなげやすいマーケティング領域と違い、育成、特にマネージャー、経営幹部の育成については1か月、3か月といった短期で実現できるものではありません。それゆえに、計画的に育てるということが必要となります。
つまり、サクセッションプランとは、会社が永続的な発展を実現するために、未来から逆算して、「誰を」「どのように」育てるかを決めることといえます。
未来の組織図を作り上げる
サクセッションプランを作成する上でなくてはならないものが組織図です。しかも現時点での組織図ではなく、未来の組織図を描くことが重要です。この未来の組織図をどのように描くのかによって、育成計画というものは変わってきます。
この組織図は単純な部門、部署をつくるためだけのものではありません。明確に人を入れて作っていきます。例えば、5年後には、〇〇エリアにも出店している、新しい部署としてHR領域の専門部署がある、デジタルの部署がある、またアフターの部署がある。といったことも考えられます。そこにしっかりと枠を作っていくと、どの部署に何人必要か、また管理職人材が何人必要なのかがわかります。
この際に、何人の組織を作り上げるかがとても重要なポイントになってきます。この数字をつくる上でベースとなるものが中長期ビジョン、事業計画になります。
事業計画には、中長期ビジョンに基づいた数値計画がつくられます。そこには5年後の売上、利益が示されています。その数字を元に、人件費率、労働分配率、生産性を考慮しながら最適な人員数を割り出していきます。その人員数を組織に当てはめていく形で未来の組織図を完成させます。
実際にこの組織図を作る段階で教育の方向も大きく変わります。例えば店長制とするのか、エリア制とするのかで必要となるマネージャー数が変わります。店長制となるならば、店長候補人材を選び、店舗運営のための教育が必要になります。マネージャーはそれらの店長をどうマネジメントに主眼が置かれます。一方エリア制となれば、マネージャーはマーケティング力を発揮し、管轄内の業績アップの中心人物となります。
またアフターや搬送部、コンタクトセンターといった部門の数が増える事でもマネージャー層の人数は変わります。年商3億、10億といった企業のステージが変わるタイミングでは、特に組織を構築するにあたり考える内容も多岐に渡ります。
逆に言えば、それだけ組織図を構築するということは重要度が高いものであると言えます。組織図が描けないということは事業の未来が描けていないと同等です。すでに成長期を終えているエンディング業界において、行き当たりばったりでは永続的な成長を実現することは難しいでしょう。
育成プランを検討する
組織図が固まったのちに行うのが人員配置です。5年後に設計した組織図の各役職に入る人材は、現在社内に存在するのかどうかを検討します。今すぐになれる必要はありません。ですが、3年後、5年後に、可能性がある人がいるのかどうか、それも踏まえて候補人材を検討していきます。
その「可能性がある人材」の発掘が出来たら、あとはその人にどんな力が身につけばマネージャーや経営幹部になりえるのかを考えていきます。
Aさんは施行品質が抜群。一方で部門長とするならば、営業開拓力がまだまだ不足している。だから、施設営業のプロジェクトを立ち上げて任せてみよう。
あるいは、Bさんには新しい事業が立ち上がった際の責任者を任せたい。一つの経験として、この3年間で一緒に事業立上に関わってもらおう。など、未来の組織図が出来上がると身に着けるべき力もより具体的になっていきます。
ご支援先の葬儀社様では、これから数年間のうちに店舗出店を加速させる計画を作っています。そのため、マネージャーの数が圧倒的に足りなくなるという課題がすでに可視化されていました。現時点でその候補生を5名絞り込み、マネージャーとなるための教育プログラムをスタートさせました。部下を育てるためのコミュニケーション術、業績を伸ばすためのマーケティング力、ハラスメント等労務に関する基礎知識など、それまでの担当者としての仕事の中で触れることがなかった領域を意図的に学ぶ場を作り、スムーズな出店と組織成長が実現できるように準備をしています。
もちろん、5人全員がマネージャーとなるわけではありません。5人全員に同じように教育を行っても、しっかりとマネージャーとして育つのは2人ないし3人かもしれません。そういった点まで考慮して、候補人材の抽出の育成プランを作り上げる必要があります。
採用計画を連動させる
未来の組織図を作り上げて、人員配置を行っていく際に出てくる問題があります。それは、「適切な人員が見つからない」という点です。既存社員ですべてのマネージャー、経営幹部層が埋まればよいのですが、必ずしもそのような結果とならないことも当然ありえます。
そこに「採用すべき人材」という明確な課題が浮き上がります。また未来の組織図をつくる過程で割り出した人員数と現在を比較したそのギャップが採用予定数となります。それらの人数を逆算して採用活動を行っていくことで、人不足による成長の鈍化という状況を避けることが出来ます。
経営幹部の育成プランを考えるということは、単なる教育だけではなく、採用活動にまで考慮に入れたものです。サクセッションプランを通して、未来の会社を実現するために今やるべきことが明確になります。ぜひ取り組んでみてください。
10.永続企業が意識すべき価値観共感型採用
これはある葬儀社の話です。その会社では、パート社員が事前相談対応を行っています。それだけではなく、空いた時間があればポスティングも積極的に行います。積極的にお客様との接点を持ち、そしてファンを作る活動に貢献しています。
一方別の会社では、パート社員は単なる店舗のお留守番です。お客様がいらっしゃると社員に電話し、相談対応をしてもらいます。もちろんこの対応自体が悪いわけではありませんが、前者の会社と比べると行動には大きな差があるようです。
この違いはどうして生まれるのでしょうか?これは育成の問題というよりもむしろ採用段階に違いある場合がほとんどです。前者の場合には、採用面接の段階で事前相談やポスティングを行うことを前提として話をしているのに対して、後者の場合では、採用段階でそのような話はせず、働き始めてから伝えているのです。そうなると「聞いていない」となって動いてもらえないのです。それだけ採用段階においての会社の「当たり前」を伝えることは、重要であるという例でもあります。
また次のような事例もあります。企業理念や価値観の理解・実践度を定期的なアンケートによって計測している会社があります。そして企業理念の理解・実践度の数字は、4点満点中全社平均3.75点という高い点数をたたき出します。その葬儀社では、この2年間、辞めた社員は1人のみ、しっかりと会社も成長もしています。
そんな状況を生み出している一番の要因は何かといえば、採用時の社長の面接にありました。面接時、色々と応募者に対して話を聞くだけではなく、社長自身も会社の大切にしていること、目指していることなどを30分近くの時間を使って伝えているといいます。その為、その段階で考え方が合わない候補者は辞退していきます。
逆に言えば、この面接を経た上で入社を決めた人は、最初から会社の考え方に高い理解を持ち、スピード感を持って成長を遂げていきます。
育つ人を採用することは、それだけ会社の成長において重要な意味を持つのです。
今こそ強化すべき“価値観共感型採用”
2020年から流行している新型コロナウィルスの影響で労働市場は大きく動きました。大手企業が新卒採用を見合わせるといったニュースも数多く目にし、2019年度の1.55倍という高い水準であった有効求人倍率は、1.06倍という水準までに落ち込みました。その当時は葬儀業界においては逆に採用が有利な状況でもありました。
エンディング業界は残念ながら人気業界であるとは言えません。それゆえに、労働市場が活発なタイミングでは、なかなか競争が激しくなり、人材を獲得することが難しくなります。
思い起こせば2018年頃から世の中はどこもかしこも人手不足状態であり、そもそも応募者を獲得するために大きなコストがかかっていました。そういった点から見れば、一時的にも有効求人倍率が落ち込んだ2020年は、実はエンディング業界にとってはプラスでもあったのです。
ですが、これからまた有効求人倍率は高まってくるでしょう。採用の難易度も高まってくるはずです。同じように採用活動を行えば、応募獲得コストもどんどん上昇してしまいます。そんな中でも自分たちの会社を選んでもらう理由をつくるためにはどうすればよいのか。
そんなタイミングだからこそ大切にしたいのが「価値観共感型」の採用です。
人はどのようにして会社を選ぶのか
人は、働く場所を選ぶ際に次の4つのいずれかを意識しています。
1つ目は待遇。これはとても分かりやすく給与が高いという点。Indeedのような求人サイト上では、多くの情報を見て比較することが出来ず、給与面や福利厚生面といった待遇による比較がしやすい状況にあります。それゆえに、待遇はわかりやすい選択基準の一つになります。
2つ目は、仕事の内容。特に「こんな仕事がしたい!」という明確な想いを持っている人は、仕事内容に興味を持ち、働く場所を選んでいきます。その中でいかに自分が成長できそうかという視点を大事にしています。
3つ目が人。どんな人が働いているのかに興味を持ち、一緒に働く仲間を大切にする人です。会社を辞める人の理由の多くが人であるという点からも、人を働く場所の要因として大切にする理由はよく理解できます。
そして4つ目が会社の理念。理念に共感することによって会社に興味を持ち、働く場所として選んでくれるという人です。
これらを複合的に考えて働く場所を見ていますが、人によってどこかに比重を置いて会社を選んでいます。
価値観共感型採用とは、この4つのうち特に3つ目と4つ目に上げた「人」「理念」といった要素を強く打ち出す採用手法のことを言います。
待遇を打ち出した採用はとても効果が出やすいといえますが、待遇で会社を選んだ人は、また待遇によって別の会社に移る可能性が高くなります。また仕事の内容においては、異業種間では違いを生み出せますが、同業種内においては違いを生み出すことが出来ません。
一方、その会社にしかない資産である「人」や「考え方」を強く打ち出すことは、他社との違いを明確にして、その会社への理解度を高い人の採用を実現します。多くの人数を採用することの難易度は高まりますが、成長スピードが高い良い人材の獲得が実現できる方法といえます。
“採用”における3つの領域
採用とは、いろんな意味を含んでいます。大きく分けると3つの領域に分解することができます。まずは自社のことを知ってもらい興味を持ってもらうまでの「エントリーマネジメント」、実際の応募から面接、そして内定の段階にある「リクルーティング」、そして内定後から活躍するまでのサポートを行う「オンボーディング」。採用を考える上では、この3つの領域について、それぞれ意図を持った仕掛けを行いながら、組み立てていくことが大切です。
またこれらの3つの領域は、さらに細かく分けることが出来ます。エントリーマネジメントは「認知」「興味・理解」「検討」してもらうための仕組みであり、「応募」「選考」「内定」を出すまでの活動がリクルーティング、「入社」「定着」「活躍」までの仕組みをオンボーディングとなります。
これらの流れというのは、マーケティング活動に似ています。自社を認知してもらい、興味・理解を高めながら、いざという時に検討してもらう。その後購入に至るまでのサポートを行い、購入後のフォローによって固定客化を図る。
採用に力を入れるということは、採用の領域においてマーケティング発想をしっかりと持ちこみ、良い人材を獲得するための活動を行うことと同等なのです。
エントリーマネジメントにおいて大切なこと
価値観共感型採用を実践していくために、エントリーマネジメント段階で実践することは何か。それは一言でいえば、VMVの発信です。これまでの連載の中にもマネージャー育成の場面でも何度も出てきていたこのVMVは、価値観共感型採用においても重要な要素となります。
まず確認していただきたいのが、会社のHPに「採用のためのページ」が用意されているかどうかです。単なる応募要項が乗っているだけではありません。採用のために作りこまれたページが存在しているかどうかです。
多くの葬儀社においてHPは「施行依頼」のために作られています。ですが、HPを見る人は施行検討者だけではありません。応募検討者も確実にHPを訪れます。応募検討者にとっては、家族葬がいくらとか、事前相談とか、そういった情報は必要ありません。むしろ、どんな雰囲気で、どんな人がいて、どんなことを大切にしているか、が知りたい情報なのです。採用のためのページには、それらをしっかりと発信していく必要があります。
弊社のご支援先では、ほとんどの会社が、この採用ページを作成しています。実際にサイトの閲覧者の動きを見てみると、その数は施行依頼には遠く及ばないことが多いのですが、閲覧時間についてはかなり長く、それだけしっかりと読みこまれていることがわかります。
新卒であれば、初めて働く会社になります。どんな会社であるかをしっかり読むことは当然のことです。中途採用であっても、前の会社を辞めた何かしらの理由があるはずです。同じ過ちを繰り返さないために、慎重にその会社のことを調べることは容易に想像がつきます。
理念共感型採用のスタートは、応募検討者に向けたVMVをしっかりと発信することから始まります。
リクルーティングにおいて大切なこと
会社が大切にするVMVを発信することから始まり、応募をしてくれた人に対して内定までを出す段階がリクルーティングです。応募してきてくれた人の何を見極めて内定とするかが大切になります。
人手不足時代における採用難、またエンディング業界はそれほど人気業種でもありません。せっかく応募してくれたからといって、条件面だけを確認し、安易に内定を決めてしまう会社があります。ですが、残念ながらそういった方は長く続かない場合がほとんどです。しっかりと社員が定着し活躍するような会社の内定通過率を見ると20%~30%です。これは中途採用の場合であり、新卒採用であればもっと低くなります。
それだけしっかりとリクルーティング段階で見極めを行いながら、内定を出す必要があります。そしてここで見極めるべきことが条件でも、スキルでもなく、会社の大切にする価値観に合っているかどうかという観点になります。
例えば、ある会社では、会社が大切にする6つの行動指針に沿って質問内容を設計しています。その答えによって、価値観が合うかどうかを確認しています。たとえ条件があっていたとしても、価値観が合っていなければ不採用になります。
また別の会社では、面談の最終段階で、質問するのではなく、会社の理念について社長が熱く語る時間をとっています。その話を聞くと中には辞退をされる人もいるといいます。ですが、辞退をするような人は結局入社後に価値観が合わず早期離職につながります。結果的には、面接段階で理念共感を強く行うことで、その後に発生してしまう教育のロスを防いでいるのです。
オンボーディングにおいて大切なこと
内定段階から始まるオンボーディングにおいて大事なことは、早い段階で理念教育ができるかどうかという点です。新卒でいえば、内定から入社までの間の中でプロジェクト的に学生と携わりながらVMVの理解を深めます。中途採用においては、入社までの期間がそれほど長くはありませんので、入社後にしっかりとVMVを理解するための時間を設けるということです。
これらの目的は、「自ら育つ人」を育てるためのものです。誰しもがそれほど手をかけずとも主体的に学びを持ってくれる人はうれしいはずです。主体で動ける人は何が違うかといえば、その人が「優秀」であるかどうかではなく、「何のために」頑張るかどうかが明確になっているかの違いです。その目的が会社の理念と一致すれば、その人は自ずと主体的になるのです。
理念共感型採用は会社を強くする
採用をここまで分解すると、やることがとても多く面倒と考える方もいるかもしれません。確かにお金を出して中途採用媒体に広告を掲載すれば少なからず人も集まります。そこで面接をすれば、人の充足という観点でいえば十分かもしれません。
しかし採用に関しては、考えなくてはならない「見えざるコスト」があります。例えば、ハローワークで求人をかけて採用が決まったとします。採用にかかったコスト自体は0円です。その人が会社に合わなくて3か月で辞めてしまったとします。月のお給料が20万円だったとすれば、3か月お支払いしていた約60万円が無駄になりました。さらにいえば、その方の教育のために社員さんがかけていた時間があります。そこにも給与は発生していますし、その時間も無駄になります。結果としては、「60万円を使ったけれども、戦力となる人は一人も採用できなかった。」ということと同等なのです。
それは教育が悪かったからという反論もあるかもしれません。ですが、早期に辞める人は、大概採用段階が間違っていることの方が多いです。
こういった見えざるコストのことを考えると、新卒採用や中途採用において、しっかりと準備を行い、自社に合う人材を見極めることの重要性がわかるのではないでしょうか。
11.永続する強い会社になるための人材戦略
圧倒的に不足する戦略人事という考え方
これまでに経営コンサルタントとして何百社の中小企業に出会ってきました。その中で中小企業のほとんどが抱える課題がありました。それが「人材」です。どんなビジネスをしていようとも人がいないビジネスは存在しません。優秀な人がいない、人手が不足している、すぐ辞めてしまう、悩みは違えど、ほとんどの会社は「人」に関する課題を持っています。しかし、ある考え方をしっかりと取り入れながら経営をしている企業においては、この限りではありませんでした。その考え方が「戦略人事」といわれるものです。
戦略人事とは、経営戦略に連動した戦略的な人材マネジメントを行うということです。多くの中小企業においては、事業戦略が先行します。それは当然のことで、いかに売上を伸ばすか、利益を生み出すかを意識して広告宣伝や出店などの投資活動に目を向けます。固定費となる人件費はなるべくかけずに、効率的に売上を伸ばしたい、誰もがそのように考えるのは経営者としてはむしろ自然です。
ですが、このまま突き進んだ時に、あるところで躓いてしまいます。経営者一人で組織全体に目が行き届いていた時は問題ないものが、店舗数が増える、人が増える中で、やりたいことが進まない、主体的に動いてくれない、人を育てられない、と頭を抱えることになります。しかし、それもある意味当然のことで、「人を育てる」ことを意識的にやってこなかった組織においては、その中で育った人は「育てる」方法を知りません。管理職といっても、マーケティングもマネジメントも教わったことがない状態を良く目の当たりします。
経営者は創業時から家業、そして企業になるまでの中で、事業戦略、そして人材戦略を誰に教わったわけでもなく当たり前のように考えながら実践しています。ですが、これらは自然と伝わるものではありません。しっかりとした意図をもって伝えることをしていかないと、その力を持つ幹部が育つことはないのです。ですから、その経営戦略を支える人材戦略=戦略人事の考え方を企業に落とし込むことが、強い会社として成長するためになくてはならない考え方になるのです。
人材に「投資」するとはどういうことか?
戦略人事を実践する会社は、しっかりと人材に「投資」を行っています。そんなことは自分のところでも行っている、という経営者の皆様も多いかもしれません。ですが、本当の意味で人材に対して「投資」を行うことができていますでしょうか?
投資とは、将来の利益を生み出すために使うお金のことで、そこにはリスクも発生します。金融投資はわかりやすく、資産を増やすために行いますが、もちろん減る可能性もゼロではありません。葬儀業界でいえば、わかりやすい投資は「出店」になるでしょう。何千万、時に1億を超える金額を、施行件数を増やすために投資します。ですが、出店したからといっていきなり施行件数が増えるわけでもありません。中には出店したものの思うように施行件数が伸びず、借金だけが増えてしまうということもあるはずです。
しかし、人材への投資となると、このリスクをリスクとして考えていない話も耳にすることがあります。「過去に採用した新卒社員が全然ダメだったから、うちの会社は中途しか行わない。」「人を増やしても全然仕事をしないで経費が増えただけだったから、うちは採用はしない。」「研修をやってみても1か月も経てば全員忘れるから、研修なんて意味がない。」など。過去1回の良くない経験がすべてかのように、その後の取組を辞めてしまう会社に出会うことがあります。これは本当にもったいないことです。
新卒社員がダメだったのは、採用段階での見極めが良くなかったのでは?人を増やしたときに仕事を与えてあげられなかったマネジメント側の課題では?そもそも適切な研修の設計になっていたのか?など、改善の可能性は大いにあるにもかかわらず、人への「投資」を辞めてしまう。結果として、こういった会社では人が増えず、そして育たず、持続的な成長を続けることができなくなるのです。
どこまで行ってもVMVが軸になる
事業戦略に沿った人材戦略を組むとは、具体的には組織デザイン、採用、教育(育成)、評価制度といったものを設計するということになります。ここで大事なことは、何をやるにおいても会社のビジョン、ミッション、バリュー(以下VMVと記載)が軸になるという点です。会社がどこを目指し、どんな会社でありたいのか、そのために何を使命とするのか。VMVがあるからこそ、どんな組織が描けるのかが固まり、その組織を実現するための採用計画、その組織を実現するための育成計画が作られ、評価制度によって育成をサポートし、そして実践を通じてVMVの実現を図るわけです。
ですから、VMVがない中で、評価制度を作ろうとか、教育制度を作りたいという話は全く持って意味がないものになります。
実際に半年近くの時間をかけて一緒にVMVを見直した葬儀社様も1社や2社ではありません。そしてVMVが固まると、未来に向けた人材戦略作りが加速度的に進んでいきます。これまでの連載の中で様々な採用事例・育成事例を取り上げてきましたが、そのどの企業においても中心にあったものはやはりVMVだったのです。
永続企業になるためのステップ
VMVをしっかりと固めるところからスタートし、組織デザインや採用、教育、評価を設計することは重要なことです。ですが、その前にやるべきことが「個」へのアプローチです。組織を構成する一人一人が仕事へのやりがいを持ち、そしてチームとして連携できる体制がある状態。それがない中でどれだけ高尚なVMVを作っても上滑りし、組織デザインや採用、教育、評価を設計したとしてもうまく機能することはありません。弊社では社員一人一人にインタビューを行い、オリジナルの冊子を作るブランドブックという取り組みを行っていますが、これは販促物としての冊子という意味以上に、一人一人にインタビューすることに意味があります。インタビューを通じて仕事のやりがい、本人のビジョンを通じて、正しい組織状況を理解します。現場においてまだ心理的安全性が不足しているとなれば、そこに安全性を構築するためのワークショップを実施し、ビジョンがみんなバラバラであるとわければVMVを改めて再構築します。
一人一人にアプローチすることで現状を正しく理解し、設計フェーズを得て、それぞれの施策の実行を行う。様々なプロジェクトを通じて、VMVを浸透させながら、人材育成や業績向上に連動させる。そのようなサイクルを作ることによって、永続的な発展を続けることのできる強い会社へと成長します。
ぜひ皆様の会社も、VMVを軸とした永続する強い会社への変革することを願っております。