この記事は美容室経営者の中で今後どのように経営していくべきか悩んでおられる方に向けて、少しでも希望の光が見える内容にしたいと思います。冒頭から「今後をどのように経営していくべきか悩んでおられる」と書きましたが、その背景についてまず始めに触れたいと思います。

その昔、2000年にキムタク主演の「ビューティフルライフ」というドラマ(最高瞬間視聴率42%)が流行り、約20年前にカリスマ美容師ブームが到来しました。それをきっかけに美容師を目指す方が急増し、その後年々、美容室の出店数は増えました。その流れを受けて、ホットペッパービューティーや楽天ビューティーなどのポータルサイトが登場しました。近年は価格競争やプラン競争が激しくなっており、全国の中小美容室が疲弊してきています。

その流れを受けて、業務委託モデルが登場し、美容師やお客様がそちらに流れていって辛い想いをする美容室経営者も少なくありませんでした。その流れに追随するかのように、都内近郊の美容室経営者がSNSの流れをくみ取ってSNS集客に注力する流れが出てきました。SNSもインスタやyoutubeやtiktokやTwitterなど、多様な種類が出てきて、その流れを追いかけるのも大変な状況に。今までは店舗で広告して集客していた流れが、美容師個人にフォーカスした広告戦略へと時代が変わり、今まで以上に美容師の「個の時代」が到来しました。

その流れを受けて、旧来型の美容室(カット3500円~5,000円)の中価格帯サロンが新卒採用をしてスタイリストになるまで時間をかけて育てるモデル(人件費と集客コストがかさみ、美容師の給料が上がりづらい構造)に未来があるのか…と不安に思う美容室経営者が増えてきました。そんな旧来型の美容室で起こっている経営現場の人間模様から話を進めていきたいと思います。(※美容室のHRコンサルティングを行っているコンサルタントが執筆しています。)

 

本記事の目次
1. 旧来型の美容室で起こっている経営現場の人間模様
2. 他業界からの参入や業務委託モデルという黒船の到来
3. 強い組織を作っている美容室経営者が心がけていること
4. 旧来型美容室の次の一手は店長・幹部育成。そしてその先は新規事業挑戦へ。

 

1.旧来型の美容室で起こっている経営現場の人間模様

旧来型の美容室で起こっている事の背景には美容師という仕事の特徴が大きく影響しています。美容師の仕事の特徴は1人ひとりのお客様と向き合い、コツコツと積み上げて売上を作っていく点です。そのため、現場の美容師さんに「どうしたら個人売上が上がると思いますか?」と聞くと、「1人ひとりのお客様と丁寧に向き合い、時間をかけたことで売上が上がったので、皆もそうしたら良いと思います!」と答えてくれる美容師さんも少なくありません。

確かにそれは事実だと思いますが、もう少し分解して考えてみます。多くの美容師は個人売上を上げるために、まずスタイリストになったら「回転率(1日に何人のお客様の施術に入れるか)」を追い求め、次に「単価(カット+カラー+トリートメント+シャンプーリンス等の店販も含む)」を追い求めます。それに加えて最近は、売れるスタイリストや店長が自分の強み商品を明確に持っている人が多いです。より正確にいうと、再来までの期間が短いショートカットやカラーの技術力を意図的に磨き、抱えている「常連客の回転期間を短くする」という手法で個人売上を上げている人が増えています。自分のショートカットやカラーの技術力が高い事をアピールする手段として、SNSが登場します。SNSを活用しながら、「この地域でショートカットやカラーなら私にお任せ!」というブランディングに成功しているスタイリストの売上が上がっているという事です。

そのようにして個人売上が上がったスタイリストが、次なる店長に抜擢されます。そして自身が店長になった後も、他のスタイリストがすぐに売上を上げられる訳ではないので自分の個人売上を追い求めて店舗売上を作ります。その結果、お客様対応の増加や高度化するため、店舗メンバーのマネジメントや教育に時間や労力を割く事が難しい状況が出来上がります。

その結果、1人のスーパースタイリスト(店長)が現場を回し、施術も入りながら他のメンバーへの指示だしも行う。その結果、お客様一人ひとりに寄り添った対応(カスタマイズが効いた提案や対応)が難しくなり、徐々に単価も下がり、継続率も下がってしまうという状況に陥ります。それでもその時を何とか耐えて、次なるスーパースタイリストが生まれるまで頑張るも、そのような方がなかなか育たないか、育ったタイミングで転職してしまい途方に暮れるケースも少なくありません。

中には、店長が自分指名のお客様を部下メンバーに対応させて、自分はそのフォロー役に回る事ができる方もいますが、そのような方は極わずかです。なぜなら、店長の本音は「自分はいつかこの店舗を去るかもしれないから、できるだけお客様を離したくはない」という思いが深層心理で働くからです。つまり、本当に会社の事が好きで、自分はゆくゆくこの会社の幹部になりたいと思うような店長でなければ、部下のためにここまでの事はしないという構造になっています。

これが全国の中価格帯の美容室サロンで起こっている人間模様ですが、皆さまのサロンでも心当たりがある内容ではないでしょうか。

 

2.他業界からの参入や業務委託モデルという黒船の到来

そのような人間模様をより複雑にしているのが他業界からの参入や業務委託モデルです。美容師の仕事はどうしてもお客様に対するオーダーメイド性が高く、それを習得するまでに技術教育に時間がかかる構造になっています。さらに、それに拍車をかけるのが美容師さんのこだわりです。美容師さんを目指すような方々は元々美容が好きで、オシャレな髪形や美容師さんにあこがれて業界に足を踏み入れています。そのため、自分もあのような技術を身につけたい、そしてその技術をさらに伸ばしていきたいという職人肌の方が多いです。このようなこだわりのおかげで、日本国民は中単価を支払えば綺麗でオシャレな髪形になれるので非常に有難いのですが、一人前になるまでに時間がかかるというのは経営面では教育や多店舗化の際に大きなネックとなります。美容室の業界外から参入してくるサロンオーナーは、一般的な美容室オーナーほど技術へのこだわりが強くないため、教育や多店舗展開が比較的容易にできているという背景は否めません。

その他業界からの参入で多いパターンは業務委託サロンですが、美容室業界で今一番の問題になっているのが、「スタイリストになった直後に業務委託サロンに転職して高収入を得る美容師さんが増えている現象」です。これは労働市場において当然の流れといえばそこまでなのですが、せっかく多額の採用コストをかけて新卒採用をしたのに、そして入社当時は「管理職を目指して頑張りたいです!」と目を輝かせていたはずなのに、手間暇をかけて一生懸命育てて個人売上もあがって、いざ店長になれる事が見えてきたあたりになると「あれっ、思ったより給料が増えない割にやる事も増えて大変だな…」と現実の壁にぶち当たり、業務委託サロンに転職するか、独立の道を考え出すという事です。

せっかく頑張って築き上げた土台を、他のサロンや独立という黒船に取られていくのは美容室経営者として辛く、美容室HRコンサルタントの私も胸が張り裂ける想いでその現場に立ち会ってきました。

 

3.強い組織を作っている美容室経営者が心がけていること

だからこそ、美容室経営者には強い組織を作って、人が残りたくなる美容室へと改革を進めていく必要があります。

美容室が強い組織になっていくためにマネジメント人材(オーナー・幹部)に求められることは、「①新人採用力と②新人の早期育成力と③スタイリスト・店長を辞めさせない力」です。美容室経営者にお話を伺うと「店長を育てたい。メンバーが売上を作れるような店長になってほしいし、アシスタントやデビュー直後のスタイリストを辞めさせない店長になってほしい」とよくおっしゃります。想いとしては理解できるのですが、ポイントは「入口と出口を強化する」という事が重要です。

入口とは採用と早期教育。出口とは店長が残り続けたいと思う組織作りをする。この2つです。
この2つが構築できれば、店長は幹部を目指して部下教育に本気を出しますし、アシスタントやデビュー直後のスタイリストに「目先のお金に目がくらんで業務委託サロンにいくより、自分たちと一緒にサロンの未来を創っていく方が楽しいし幸せだからともに頑張ろうよ」と口説いてくれて退職は止まります。

入口と出口。これはマーケティングでも同じで、新規集客数と継続率が一番大事な指標です。人材戦略も同じ考え方です。

この入口の部分は新卒採用をして早期教育をするという道筋が明確ですが、出口部分の「店長が残り続けたいと思う組織づくり」というのは道筋が見えにくいのでもう少し解説します。

 

4.旧来型美容室の次の一手は店長・幹部育成。そしてその先は新規事業挑戦へ

美容室HRコンサルタントとして数々の美容室店長と接してきて感じてきた事があります。それはサロンに残って幹部として頑張っている人は「社長の事が好き!」という共通点があるという事です。口々に「社長に恩がある」とか、「社長に感謝している」というフレーズを話します。

つまり、多くのケースでは社長の人望で幹部や店長が残っているという実態があるという事です。そのため、社長が幹部や店長と接する時間や労力に手を抜き出すと組織崩壊を起こすケースがあります。組織崩壊といっても、崩壊した原因が別のところにあるように現場では見えるから厄介なのですが、原因を深く考えていくと、社長が幹部や店長に時間を使わなくなったあたりから会社がおかしな方向に進んでいるケースは少なくありません。(例えば、社長が平日にゴルフを優先させ始めたらアウト…ですね。)

また中には、幹部や店長に時間や労力を注ぎ込んでいる美容室経営者のサロンでも、給料が原因で退職になってしまうケースもあります。その時は美容室経営者が人間不信を発症するタイミングなのですが、それでもめげずにまた立ち直って、サロンの経営理念に向かって新しい幹部や店長と接していく事が求められます。

そうして、新卒で入った子がメキメキと成長して店長や幹部になってくると、次のステージは幹部メンバーを軸とした多角化経営への挑戦が一大経営テーマになってきます。その多角化事業のネタはたくさんありますが、選択基準の一番目は「経営理念」です。次に収益性です。この順番が逆転すると、儲ける事を優先し、自分たちの価値基準が金になってしまいます。そうなると金が理由で組織崩壊を起こします。まず初めにあるべきは「経営理念」です。どんな人を、どんな形で、どうやって幸せにしたいのか。そのための手段として多角化経営への挑戦があります。

美容室事業単体で考えると、業務委託モデルに美容師やお客様が流れてしまうのは仕方のない流れです。(一定の技術を身につけた美容師さんから、低単価で綺麗な髪形にしてもらえるあのビジネスモデルは素晴らしいと思いますが。)

だからこそ、中価格帯の旧来型美容室は、経営理念をベースとしたトータルビューティーサロンや多角化経営サロンへと脱皮していく必要があります。脱皮をして事業内容が変わっても、1人ひとりのお客様を大事にしていく発想に変わりはなく、むしろ多角化することで1人のお客様が会社に使うお金や時間は増えていきます。これをマーケティング用語では、ライフタイムバリュー(通称:LTV エルティーブイ)と呼びます。

「自分たちは髪を綺麗にするだけの存在ではなく、よりお客様に寄り添ってお客様の幸せを作っていく強い信念や経営理念を体現していく会社に成長していく。君はそのような組織で働きたいのか。それとも技術力はそこそこに金目当てで業務委託サロンにいきたいのか。自分たちと一緒に頑張っていかないか!」と語れる幹部・店長が一人でも増えたら、その組織は強くなっていきます。

 

つむぎ株式会社では美容室向け「幹部や店長の育成、そして理念経営の実現」のHRコンサルティングもしておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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