2026年2月25日「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」が公表されました。これは、労働環境を現代的に整え働きやすくする取り組みを、中小企業で実施する場合の具体的な指針を示しています。
中小企業でも無理なく制度を導入できるようにするための具体的な指針です。2025年5月に可決された労働安全衛生法の改正です。施行は2026年4月以降、段階的に始まっており、制度としての整備はすでに動き出しています。
そもそも1972年に制定された労働安全衛生法は、これまでも働き方や社会情勢などの変化に応じ法改正が行われてきました。
そうしたなか、2025年5月行われた改正では、中でも注目されているのが、これまで努力義務にとどまっていた「50人未満の事業場」に対するストレスチェックの義務化です。

うつ病や適応障害といった現代的な疾病について、それらを未然に防ぐメンタルヘルスへの対応にも国が動き出したということは、社会的にも非常に前向きな動きといえるでしょう。
企業におけるメンタルヘルス対策が新たな段階へと進んだといっても過言ではありません。
「50人未満の事業場」に対するストレスチェックの義務化自体は、2028年からとされていますが、2026年2月25日に「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」が公表されたように、その準備はすでに進行中です。
しかし、ここで一つ問いを投げかけたいと思います。
「ストレスチェックを“実施するだけ”で、職場は本当に良くなるのでしょうか?」
ストレスチェックだけでは職場は変わらない ストレスチェックは「危険信号」を教えるだけ
ストレスチェックは多くの場合、社員に就労環境についてアンケートを取る形で進行します。
この取り組みによって分かることは、大きく分けて2つです。
一つは「ストレス値が高い従業員の存在」、もう一つは「職場環境の傾向」です。つまり、ストレスチェックはいわば“危険信号”を可視化する仕組みだといえます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
それは「誰に、何をすればいいのか」までは分からないという点です。

実際に私自身もその体験があるのでその意味はよくわかります。私がまだ会社員時代だったころ、部署のストレスチェックを実施した結果、1名、ストレス値が高いメンバーがいることがわかりました。
ただ、その時は「それだけ」であり、メンバーの状況はそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。
当然、そのメンバーに心理的な疾病の発症や退職の相談などといった異常がないため、プライバシーの観点から誰かを特定することはしませんでしたし、できませんでした。加えて、そのメンバーがストレスを感じた原因が「業務量」にあるのか、「人間関係」にあるのか、はたまた私の「マネジメント」にあるのかまでは把握することはできませんでした。
今のは私の例ですが、ほとんどのストレスチェックは深刻な異常がない場合、“危険信号”を可視化することだけしかできません。
その結果として、危険信号は受け取ったものの
- 対応策が分からない
- 具体的なアクションが取れない
- 問題が放置される
といった状況に陥りやすくなります。
この状況を放置すれば、メンバーの離職や生産性低下といった形で、組織に大きな影響が出てしまいます。
一方でむやみやたらに注意し過ぎてしまうことも良くありません。なぜなら、一人を除けば全員が健全な状態で、その一人を意識し、就労環境を変えてしまえば、現状において健全な状態にあるメンバーにも影響が出てしまう可能性があるためです。
重要なのは「経営者としてその結果をどう使うか」 ストレスチェックは、行ってからが本番
では、どうすればよいのでしょうか。
答えはシンプルです。ストレスチェックの“後”に何をするかがすべてです。
大事なことは、今の取り組みを「悪い」とするのではなく、このチェックの結果を一つのヒントとして、今の取り組みを見直すことにあるはずです。
例えば
- 1on1の内容は十分か、インタビュー、またフィードバックができているか
- 職場環境を改めて見直したときに「不」の存在はないか
- マネジメントスタイルは自己流になりすぎていないか
- 業務負荷が誰かに集中していないか
といった見直しの方向があります。
特に重要なのは、「対話」です。

数字だけでは見えない現場の声を拾い上げることで、初めて本質的な課題が見えてきます。
また、ストレスチェックで問題が顕在化しているということは、すでに環境に何らかの歪みがあるというサインでもあります。
一時的な対処ではなく、抜本的な改善に踏み込むことが求められます。
つまり、ストレスチェックは“施策の入口”に過ぎません。
義務化を「制度対応」で終わらせないために ストレスチェック結果の活用を

ストレスチェック義務化に向けた動きは、すでに始まっています。今後、多くの企業が制度対応を進めていくことになるでしょう。
しかし、本当に大切なのは「実施すること」ではなく、「活用すること」です。
職場の声を拾い、課題に向き合い、改善につなげる。その一連の流れがあって初めて、ストレスチェックは意味を持ちます。
制度を“やらされ仕事”で終わらせるのか、
組織を変える“きっかけ”にするのか。
その分かれ道は、企業の姿勢にかかっています。
ストレスチェックは、働きやすい職場づくりの“答え”ではありません。その結果をどう使うかが、職場を変える分かれ道になります。
