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廃棄物処理業界では、近年、法制度の改正や脱炭素社会への転換、人材不足、M&Aの増加など、外部環境の変化が急速に進んでいます。
こうした状況下で問われるのが、「自社はこれからどこへ向かうのか?」という経営のビジョンです。事業承継や設備更新を控えた企業も多く、「なんとなく今を維持する」だけの経営は、先行きに不安を残します。
そこで重要となるのが中期経営計画です。単なる数値目標の羅列ではなく、自社の未来像を言語化し、経営者・社員・金融機関などすべてのステークホルダーが同じ方向を向くための「設計図」です。
本記事では、産業廃棄物業界における中期経営計画の考え方、構成要素、作成手順、実際の活用事例までをわかりやすく解説します。

法改正・人材難・M&A…変化に飲み込まれないために必要な「構造的視点」

現在、産業廃棄物業界はかつてないほど大きな変化の波に直面しています。2024年の廃棄物処理法改正や電子マニフェストの義務化といった制度面のアップデートに加え、企業の脱炭素やSDGs対応に対する意識の高まりが、処理業者にも新たな対応を求めるようになってきました。
また、排出事業者からの「再資源化率を上げてほしい」「環境に配慮した処理をしてほしい」といった要望も増加しており、従来の処理体制やコスト構造では限界を迎えつつあります。
さらに、M&Aの増加や経営者の高齢化、属人化した現場体制といった内部要因も重なり、事業継続そのものが不安定になるケースも出てきています。
これらの課題はいずれも、場当たり的な対応では太刀打ちできない“構造的問題”であり、数年先を見据えた事業戦略の再設計が急務となっています。

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「3〜5年後の未来を描く」──数字だけじゃない中期経営計画の本当の価値

中期経営計画とは、3年から5年先の未来を見据え、現状とのギャップを明確にしたうえで、その差を埋めるための戦略や具体的施策をまとめた「経営の道しるべ」です。
単に売上や利益といった数値目標を並べるだけではなく、「なぜこの方向を目指すのか」「そのために何を、いつ、誰がどう実行するのか」を言語化し、経営者・社員・金融機関など、すべての関係者が共通の未来像を描けるようにすることが目的です。
基本的な構成としては以下のような項目が含まれます:

とくに産業廃棄物業界では、中期経営計画が金融機関との信頼構築や社員との方向性共有に大きな役割を果たします。単なる資金調達用資料ではなく、「社内外の意思統一ツール」として捉えることが重要です。

ビジネスプラン

「制度」「人」「環境」「成長」──中期経営計画に盛り込むべき4つの要素とは?

中期経営計画を策定するにあたって、産業廃棄物業界ならではの特性や外部環境を踏まえた検討が欠かせません。特に押さえておきたい4つのポイントを紹介します。

ポイント1|法制度・インフラの変化を見据えた収益モデル再設計
たとえば、焼却炉の更新、新たな車両の導入、安全対策の強化、ISOの取得など、将来の投資計画をあらかじめ中計に反映させておくことで、経営の見通しが明確になります。

ポイント2|人材戦略との連動
「採用をどう進めるか」「若手をどう育てて定着させるか」といった人材計画も、中期経営計画に組み込むべき要素です。人材KPI(例:3年以内離職率、資格保有者数など)を設定し、定量的に追える設計が望まれます。また、後継者育成や事業承継に関する方針も、ここで言語化しておくことが重要です。

ポイント3|再資源化・脱炭素対応の明文化
処理業務にとどまらず、再資源化の取り組みやCO2削減など、環境経営に対する姿勢を中計に反映させることで、自治体や排出事業者、金融機関などからの信頼を獲得しやすくなります。SDGsやESGを意識した目標設定も重要です。

ポイント4|M&Aや新規事業の検討
収集運搬業務と物流業との連携、新たな資源循環分野への参入など、成長分野を中計に盛り込むことで、企業の中長期的なビジョンがより鮮明になります。

経営者一人で作らない──現場を巻き込む中期経営計画づくり4つのステップ

中期経営計画は、経営者が一人でつくるものではありません。関係者を巻き込みながら作成することで、より現実的で実行性の高い計画になります。以下は基本的な4ステップです。

STEP1|環境分析の実施
経営陣と現場責任者が協働し、社内外の現状をフレームワークなどで整理します。

STEP2|ビジョンの言語化
「5年後、自社はどうなっていたいか」「どんな価値を社会に提供したいか」を明文化します。このビジョンが、戦略や数値目標の出発点になります。

STEP3|戦略と各部門の整合性をとる
ビジョンをもとに、営業・現場・人事・設備投資など、各分野の中期戦略をすり合わせます。このとき、人材戦略と数字(KPI)の連動も意識します。

STEP4|社内説明とKPI管理体制の構築
完成した中計は、社内に丁寧に説明し、浸透を図ります。ビジュアルや図解を使ってわかりやすく伝えると、理解度と納得感が上がります。また、年次の進捗管理体制もここで設計しておきます。

現場の声を早い段階から取り入れることで、「やらされ感」のない計画として機能します。

会議

「中計ってウチにも必要?」に答える──現場でよくある3つの疑問にお答えします

Q. 中小企業でも中期経営計画は必要?
A. はい。経営の見える化、社員との方向性共有、金融機関との関係強化など多くのメリットがあります。

Q. 中期計画は提出用ですか?社内活用もできますか?
A. 社内での浸透・実行こそが本質です。事業部や現場との連動を図りましょう。

Q. 外部環境が変わったらどう修正すれば?
A. 年次で進捗レビューを行い、柔軟に軌道修正できる設計にしておくのが望ましいです。

「どこから始める?」に応える──無料相談・関連資料で次の一歩を後押し

もし「どこから手をつけていいかわからない」「どんな作り方がいいのか?」と感じられた場合は、ぜひお問い合わせをいただければと思います。中小企業の人事領域に対し豊富な知見を持つコンサルタントと、30分間無料でご相談が可能です。

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協力

法改正・脱炭素・人材難など、産業廃棄物業界は変化への対応が急務です。
中期経営計画は、経営者の思いや未来像を見える化し、組織全体を巻き込む経営ツールです。
今こそ、“未来を先に描き、今を逆算する”思考で、次の一手を明確にしましょう。