会議

「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用してもすぐ辞めてしまう」──。

そんな課題に直面している産業廃棄物業界の中小企業は少なくありません。

特にドライバーや現場作業員など、現場を支える人材の確保が年々難しくなっており、危機感を抱く経営者が増えています。

これまで人事業務は、現場任せや総務部門との兼任でなんとか回してきた企業も多いでしょう。しかし、採用難・定着難が深刻化する今、人事の仕組みや人材戦略の不在が経営に直接影響を与え始めています。

本記事では、産廃業界において人事部門が果たす役割、その必要性と導入ステップ、そして実際の効果について、わかりやすく解説します。

採用も育成も属人化…廃棄物業界における人事不在のリスクとは

産業廃棄物業界において、採用と定着、そして育成に関する課題は今や深刻な経営リスクとなりつつあります。まず挙げられるのが、高い離職率と現場の高齢化による人材の空洞化です。若手の採用が思うように進まず、既存のベテラン社員が退職した後の補填が追いつかないという声が多く聞かれます。

また、採用活動が属人化していることも大きな問題です。現場責任者や総務担当者が片手間で採用を担当するケースが多く、採用ノウハウが蓄積されにくいばかりか、次回の採用活動に活かせない状況が続いています。

さらに、SNSや求人サイトの口コミが広がる時代において、「採用広報の未整備」や「社員の声が外部に伝わっていない」ことが、企業イメージや応募数に悪影響を及ぼす事例も増えています。

最大の課題は、「人事」という機能がそもそも社内に存在していないこと。採用・育成・評価といった人材戦略が体系的に設計されていないため、行き当たりばったりの施策に終始し、組織の成長が停滞してしまうのです。

頭を抱えるサラリーマン

誤解されがちな“人事部門”──本当の役割は「組織を動かす司令塔」

「人事部門=採用担当」と思われがちですが、それは人事のほんの一部分にすぎません。人事の本来の役割は、社員が安心して働き、成長し、長く活躍できる環境を整えること。そのための“組織づくりの司令塔”であり、戦略と仕組みの中心を担う部署です。

人事の機能は大きく5つに分けられます:

  1. 採用:戦略的にどんな人を集めるかを考え、効果的な母集団形成を行う
  2. 定着:入社後のオンボーディング、定期面談、キャリア面談などを通じて早期離職を防ぐ
  3. 育成:OJTや外部研修、キャリア支援制度などを活用し、社員の成長を後押しする
  4. 評価:公正で納得感のある人事評価制度を設計・運用する
  5. 労務:労働時間管理や法令対応、安全衛生の整備など、社員の働く基盤を守る

これらを統合的に機能させることで、現場の生産性やサービス品質、そして最終的には会社の売上・利益にも直結するような“経営に効く人事”が実現されます。

産廃業界だからこそ必要な人事部門の3つの視点

産廃業界は、他業界と比較して人事部門の必要性が高まっています。その理由として以下の3つが挙げられます。

① 採用競争力の確保
少子高齢化が進むなか、優秀な人材はあらゆる業界で奪い合いの状態にあります。3Kと呼ばれる業界イメージや、資格・労働環境への不安を払拭し、「ここで働きたい」と思ってもらうには、会社のやりがいや安心感をきちんと設計し、伝えられる体制が必要です。人事部門はその中核を担います。

② 定着率と教育制度の強化
産廃業界に多い現場任せのOJTだけでは、今の若手社員は育ちにくくなっています。体系的な育成プログラム、定期的な面談、キャリアパスの提示など、「この会社で成長していける」と思える仕組みが求められます。人事部門があることで、教育の仕組みづくりと継続的な運用が可能になります。

③ 事業継続と組織基盤の強化
M&Aや事業承継といった局面では、「人材をどう育てているか」「制度があるかどうか」が企業価値に大きく影響します。評価制度や育成方針がしっかり整備されている企業は、内部からの信頼だけでなく、外部からの信用も高くなります。

つまり、人事部門の存在は、日々の採用や育成だけでなく、企業の将来にわたる成長力と信頼性を高める重要なインフラなのです。

人事部門の立ち上げは4ステップでOK──専任がいなくても始められる

人事部門の立ち上げは、いきなり専任者を採用してスタートしなければならないわけではありません。次の4ステップに沿って、段階的に整備していくことが可能です。

ビジネスプラン

STEP1:人事業務の棚卸し
まずは、現状の人事に関する業務をすべて洗い出してみましょう。採用、労務管理、教育研修、評価制度など、誰が何をどうやって対応しているのかを整理することで、課題が明確になります。

STEP2:経営層との対話
次に、「どんな組織をつくりたいのか」「どんな人材に育ってほしいか」といった経営の意図を、社長や幹部と共有・明文化します。この対話こそが、制度や仕組みに“自社らしさ”を宿す第一歩です。

STEP3:体制の検討
専任の人事担当者が確保できない場合でも、まずは現場・総務との兼任からスタートしても構いません。また、社労士や人事コンサルなどの外部支援を活用することで、専門的な知見を取り入れながら体制を構築できます。

STEP4:戦略と実務の接続
人材戦略を立てたら、それに基づいて採用・育成・評価の制度やルールを整備・運用していきます。社内に人事業務の流れを示す「業務マップ」や「年間人事スケジュール」などをつくると、実務とのつながりが明確になります。

人事機能は“育てながら運用する”ものであり、完璧な形で始める必要はありません。まずはできるところから一歩ずつ整備していく姿勢が大切です。

兼任体制からスタートでもOKーー人事部門に関する疑問にお答えします。

Q. 専任の人事担当がいません。どうすれば?
A. 兼任体制からスタートでもOKです。外部の人事コンサルや社労士との連携も有効です。

Q. 総務と人事はどう違う?兼任してもいい?
A. 総務は手続き中心、人事は人材戦略と組織運営。兼任も可能ですが、戦略視点が欠けやすくなる点に注意が必要です。

Q. 外注すると何をしてくれるの?
A. 採用代行、労務管理、評価制度設計などを支援。外部ノウハウを活用し、社内の負担を軽減できます。

まずはできることから。「組織への投資」としての人事整備を

もし「どこから手をつけていいかわからない」「どんな制度がいいのか?」と感じられた場合は、ぜひお問い合わせをいただければと思います。中小企業の人事領域に対し豊富な知見を持つコンサルタントと、30分間無料でご相談が可能です。

お問い合わせ

人事部門の必要性に関連した記事をご紹介いたします。ご興味がありましたらぜひご一読ください。

「応募が来ない」の原因は“伝えていない”から?産業廃棄物業界の採用サイト作成のポイントと事例を紹介

地域に愛され、永続する計画づくりを。産業廃棄物業界のための中期経営計画を解説

人事の整備は“コスト”ではなく“未来への投資”

協力

「人が来ない、育たない、定着しない」その原因の多くは、“人事の仕組みがない”ことにあります。

人事部門の整備はコストではなく、“組織への投資”です。

まずは、自社の人事業務がどこまで機能しているのかを可視化し、改善への一歩を踏み出しましょう。