「求人を出しても人が来ない」「ようやく採用できてもすぐ辞めてしまう」──。
産業廃棄物業界では、そんな声が年々強まっています。
少子高齢化による労働人口の減少に加え、3K(きつい・汚い・危険)という業界イメージ、専門資格の必要性などが複合的に影響し、人材確保は深刻化。
2021年時点で「人材やや不足」と回答した企業は約50%、有効求人倍率は2.22倍と、他業種よりも高水準です。
こうした現状を打破するには、単なる採用活動や現場任せの教育では不十分です。今求められているのが、経営戦略と連動した「戦略人事」です。
本記事では、戦略人事の定義やその導入方法、産廃業界における活用シーン、そして成功事例をわかりやすくご紹介します。
なぜ採用も定着もうまくいかない?業界に根差す“構造的課題”を解きほぐす
産業廃棄物業界は深刻な人材不足は、複数の構造的な課題が複雑に絡み合っています。
まず、若手人材の採用が思うように進まず、現場では高齢化が進行。その結果、業務全体のパフォーマンスが落ちてきているという声も多く聞かれます。また、「3K(きつい・汚い・危険)」という旧来のイメージが未だに根強く、入職希望者が集まりにくいという業界特有のハードルもあります。
加えて、ドライバーや処理責任者といった職種に必要な資格を持つ人材の絶対数が不足しており、即戦力の採用にも苦労している企業が少なくありません。
さらに、働き方改革の流れにうまく乗り切れず、労働時間の管理や福利厚生面での遅れが、他業界と比べて見劣りするケースも目立ちます。そして最後に、経営者の高齢化が進み、後継者不在によって廃業やM&Aが相次いでいるという実態も見逃せません。
これらはいずれも一過性のものではなく、業界全体に共通する“構造的課題”だといえるでしょう。
「働く人」を“戦略資源”に変える──経営と人材をつなぐ戦略人事の考え方
「戦略人事」とは、人材を“単なる労働力”ではなく、“経営を動かす資源”と捉え、経営戦略と人事戦略を連動させて設計・運用する考え方です。
戦略人事において特に重要とされる要素は、以下の3つです。
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- 採用戦略の設計:自社に必要な人材像を定義し、それをどう集めるかを逆算して考える。
- 配置・育成・評価制度の整備:採用した人材が力を発揮できる環境・制度を整える。
- 経営理念や企業文化の浸透:会社として大切にしたい価値観や方向性を、全社に共有する。
産廃業界では、「応募が来ない」「採用しても定着しない」という悩みが多く聞かれますが、これらは「企業としてどう見られているか」「どんな人をどう育てたいのか」が明確になっていないことが原因の場合も少なくありません。だからこそ、「選ばれない理由」を可視化し、経営目線で人事を再設計することが、戦略人事の第一歩となるのです。
「採用・育成・定着」それぞれに効く!戦略人事の具体的活用シーン3選
産廃業界の現場では、以下の3つのステップを軸に、戦略人事を活用していくことが効果的です。
STEP1|採用:ペルソナ設計と採用ブランディング
まずは、自社の現場にどんな人材が必要か=ペルソナを明確にします。年齢層や価値観、働き方への希望などを想定したうえで、求人票や採用ページの内容を「条件重視」から「やりがい・職場の魅力重視」に転換する必要があります。
また、現場の雰囲気を伝える写真や動画の活用、多様な人材(女性・シニア・外国人・障がい者など)に向けたメッセージ設計も重要です。処遇改善や福利厚生だけでなく、「働く意味」や「誇り」を伝えるブランディングが、採用力を高める鍵となります。
STEP2|育成:オンボーディングとキャリアパス設計
採用した人材を定着させるためには、入社初期のオンボーディング(導入教育)と、その後のキャリアパスの設計が欠かせません。資格取得支援やOJTの仕組みを整えるのはもちろん、「この先、どう成長できるか」を本人に描いてもらうための昇進・昇格ルートの提示が求められます。
STEP3|定着:働きやすさと評価制度の見直し
働きやすさの整備には、労働時間の改善、安全対策の強化、福利厚生の拡充などの「物理的な快適さ」と、1on1や従業員アンケートといった「心理的安全性の確保」の両面が必要です。
さらに、社員が自分の仕事に意味や誇りを感じられるよう、「感謝される仕事」として可視化する取り組み(社内報・社内広報など)も効果的です。フィードバック制度や意識調査を通じて、社員の声を制度改善に活かす姿勢も、定着率を高める要因となります。
「人事部がない会社」でもできる!戦略人事の段階的導入ステップ
戦略人事は決して大企業だけの話ではありません。中小企業でも、段階的に導入していくことが可能です。以下は、産廃業界の現場に合った導入ステップです。
Step1|現状把握
まずは、自社の採用・育成・定着の状況を棚卸しし、何が課題かを“見える化”します。たとえば、「採用がうまくいっていない」「新人が育たない」「辞める理由がわからない」など、現場の声や数値を集めて、現状のボトルネックを明確にします。
Step2|ビジョンの整理
次に、「この会社はこれからどうなっていきたいのか」「どんな人材が必要なのか」を明文化します。経営者や幹部との対話のなかで、「3年後の組織像」や「今後の注力事業」を言語化し、それに応じた人材像を描いていきます。
Step3|戦略人事方針の策定
経営課題と人材課題を接続させる「戦略人事方針」を定めます。たとえば、「若手を採用し、現場で育てて管理職に登用する仕組みをつくる」「女性人材や外国人材を戦力化するための制度を整える」など、自社に合った人事の方向性を打ち出します。
Step4|制度設計
具体的には、評価制度・報酬制度・教育研修制度などを設計します。形式だけではなく、「社員が納得し、成長を実感できる仕組み」になっているかどうかがポイントです。社長や現場責任者が主導して設計することで、制度が実態にフィットします。
Step5|浸透施策の実施
仕組みをつくった後は、「どうやって根づかせるか」が大切です。たとえば、理念共有のワークショップ、1on1面談、現場主導の改善提案制度、社内報や朝礼での制度の紹介など、社員と一緒に“制度を育てていく”取り組みを行います。
人事制度は、つくって終わりではなく、現場で活用されてこそ意味があります。小さく始めて、運用しながら改善していくことが、導入を成功させるカギです。
戦略人事ってウチにも必要?──現場でよく聞かれるQ&A
Q. 戦略人事は大手企業向けの手法では?
A. いいえ。中小企業こそ「限られた人材をどう活かすか」が経営課題。戦略人事の導入効果は大きいです。
Q. 専任の人事担当者がいないのですが導入できますか?
A. はい。経営者主導で始められますし、専門家や業界団体のサポートを活用することで実現可能です。
Q. 社労士や外部コンサルとはどう連携すればよい?
A. 制度設計や研修企画を任せたり、第三者視点で人事課題を可視化してもらう連携が有効です。
何から始める?迷ったら──無料相談と事例紹介で第一歩を
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戦略人事に関係する記事は下記にもまとめています。この機会にぜひご一読ください。
“現場任せ”から“経営とつながる人事”へ──持続可能な組織づくりの第一歩を
産業廃棄物業界が抱える人材課題は、もはや現場任せでは乗り越えられません。
採用難・定着難の時代だからこそ、経営に効く「戦略人事」への転換が、持続可能な組織運営のカギを握ります。
まずは、自社の人材課題を「見える化」することから始めましょう。