クリニック経営をされている開業医の皆さまは、医師としての診療業務だけでなく、労務や人事(スタッフマネジメント)や集患対策業務などを同時並行で行う大変お忙しい日々を過ごされていると思います。

勤務医時代から開業の準備を始め、開業にあたっては色んな思いを抱えて開業された先生方ばかりだと思いますが、いざ開業してみるとクリニック経営業務の多さに撲殺されて、開業当時の思いを忘れかけている開業医の先生方も少なくないと思います。

そこでこの記事をお読みいただきながら、少しでも開業前の思いや開業当初の思いを振り返りながら、改めて今後のクリニック経営の方向性を考えるきっかけにしていただければ幸いです。

 

また、これから開業しようとお考えの先生方もこの記事をお読みいただいていると思います。

最近開業される先生方は開業前から経営や理念などについて事前に勉強してから開業される傾向にあり、その結果スタートダッシュして開業に成功される先生方も多くいらっしゃいます。

そのような姿を目指す先生方にとっても勉強になる記事ですので、最後までお読みください。

 

まずは知っておきたい「消えていった民族の共通点」というお話から

すでにご存じの先生方もいらっしゃるかもしれませんが、世界の民族研究者が「今でも生き残っている民族と過去に消えていった民族」について研究をした結果、過去に消えていった民族には3つの共通点があったとの事です。

その過去に消えていった民族の3つの共通点はこちらです。

  1. 理想や理念を失った民族す
  2. すべての価値をお金や物質で捉え、心の価値を重視しなくなった民族
  3. 自分たちの歴史を忘れた民族

 

理想や理念を失うという事は、希望を失う事やみんながまとまる理由を失う事になります。すべての価値をお金や物質で捉えてしまうという事は、お金や物さえ手に入れば、少し豊かにさえなれば、そしてこのまま生活していけそうな目星が付けば、わざわざ民族として皆で集まる理由がなくなるという事になります。自分たちの歴史を忘れて感謝する事を忘れてしまうと、今がある事が当たり前になり、傍若無人に振る舞うメンバーが出てきて収集がつかなくなってガバナンスが崩壊します。こうやって民族(=組織)は崩れていったという示唆です。

 

これを現代のクリニック経営に置き換えて考えてみると、

1. 理想や理念を大事にする。
クリニックの目指す方向性は何か。医院の理念や大事にしたい考え方は何か。
それらをスタッフも含め、全員で共有されているのか。

2. お金や休みや家からの近さのような分かりやすい職場価値“以外の価値”を大事にする。
例えば、患者さんからありがとうと言われる、医院の中に居場所がある、自分を認めてくれる。
自分のスキルや知識が増えている実感がある。他のスタッフさんの事が大好き。など。

3. 自分たちの歴史を定期的に振り返る。
院長はなぜ開業したのか。なぜこの地で開業したのか。どんな思いの患者さんが通ってくれて今があるのか。開業当初の患者さんが少なかった頃は皆がどんな思いで働いていたのか。院長やスタッフさんが今の考え方や価値観に至った経緯や背景は何だったのか。など

 

どれだけ日々の仕事が忙しくても少なくとも1年に1回は、あるいは半年に1回はこれらに思いをはせて、スタッフ全員で考える時間を取る必要があるという事になります。

 

そもそもクリニック経営理念とは何か。

先ほども出てきたように、クリニックが掲げる理想や理念を大事にする必要がありますが、それを整理している医院は実は少ないです。我々は多くの医療クリニックにHRコンサルティングを行ってきましたが、理念があって、それを明確に言える院長は極わずかでした。(逆に医業収入目標や院長の手取り目標などははっきりおっしゃる院長は多いですが…)

ということで、クリニック経営理念について考える際のフレームワークがございます。それは「ビジョン・ミッション・バリュー」と呼ばれる3つから構成されます。この3つは頭文字を取って通称:VMVと呼ばれる事もあります。では具体的にビジョン・ミッション・バリューとは何かをお伝えします。

・ビジョンとは、その医院がどの領域(Where)で何年後に(When)どんな姿になっているのか。
・ミッションとは、その医院は何を(What)するのか。
・バリューとは、その医院はそれらを実現するためにどんな価値観や行動基準(How)を大事にするのか。

 

ちなみに、最近はVMVに加えてパーパスという単語もよく聞くようになりました。これはその医院が社会全体にとっての存在意義を定義する概念で、「なぜこの医院が存在するのか、どういう位置づけなのか」というHowを第三者視点で定義づけするものです。

ここまで色々とご説明してきましたが、複雑な話になってきたので、具体例を出してみます。

 

例えば、皮膚科クリニックの場合は下記です。

・パーパス:皮膚に関する問題をワンストップで解決する。
・ビジョン:3年後に保険1日200人、自費で月300万円の皮膚科・美容皮膚科になる。
・ミッション:保険診療の効率化と、医療脱毛・シミ取りの強化と、スタッフ教育に注力する。
・バリュー:ムダ・ムラ・ムリを減らす、新しい事に挑戦し続ける、楽しいを大事にする

 

他には、眼科クリニックの場合は下記です。

・パーパス:目で不自由な想いをする方を1人でも減らす。
・ビジョン:3年後に白内障手術件数を月50件にする。
・ミッション:複数診療体制を構築しながら、患者満足度を維持する。
・バリュー:サポート精神・患者目線をいつでも忘れない

 

他には、耳鼻科クリニックの場合は下記です。

・パーパス:ハイレベルな医療サービスを届ける事で、安心して医療が受けられる町にする。
・ビジョン:3年後に分院を出して2医院体制にする。
・ミッション:診察・接遇のスタッフ教育強化でハイレベルな医療サービスを追求する。
・バリュー:過去の経験から学び続ける、他院の成功事例から学ぶ、一番を目指し続ける

 

これらは一例ですが、このようなイメージをお持ちいただけると良いと思います。

 

開業医の先生方が「理念作りを考え出すタイミング」とは。

では、我々と接点があった先生方が理念を作ろうと考えだしたきっかけは何だったのか、その点についてお伝えしたいと思います。

まず一番多いのは開業前です。次に多いのは組織が崩壊してスタッフさんが大量離職した後です。これは今後またイチからスタートさせていくにあたって考え出しているという点では前述の開業前と近いかもしれません。

その次に多いのは1医院で20人以上のスタッフさんになってきたタイミングや分院を出したタイミングです。これは組織全体に対して院長の目が届かなくなってきたタイミングといえます。皮膚科や耳鼻科や眼科や内科は大体10人弱の組織や多くても20人弱の組織がほとんどだと思いますが、整形外科など多職種の方が在籍されている科目になると割と早い段階から理念作りを考えられる先生方が多いです。

理念作りを考え出した先生方の口からよく聞く本音としては理念でスタッフさんを縛りたい(自分の枠にはめ込みたい)というニュアンスが読み取れる事があります。このような考え方で作られた理念は基本的に現場に浸透しません。なぜなら、スタッフさんは決して縛られたいとは思っていないからです。

そしてこの内容は結局自分たちを縛りたいための内容ですよね、と敏感に読み取られてしまって、理念が絵に描いた餅になって終了となります。

しかも、理念は一度作ったら決して変えてはいけないという教えに院長自身が縛られて、理念を変えることができずに理念経営とは真逆の方向にいくケースもあります。

理念を作るのはスタッフさんを縛るためではなく、どちらかというと院長が院長自身を縛る目的の方が近いかもしれません。開業当初は借金もあるし、開業前の情熱も残っていてどんどん挑戦したり、素直に他の先生方からのアドバイスを聞いて実践したりされる先生が多いです。ただ開業して大体5~10年ほどで日々の診療に飽きてくるタイミングが来て、日々の仕事のやりがいを見失いがちな先生方もいます。

また他の医院の話を聞いて羨ましく思い、自分たちがそれをやるべきかどうかを深く考えずに自分たちの医院に取り入れては現場からクレームが起こり、ひどい時はスタッフ退職が起こります。

そのような状況にならないために、自分たちの存在意義や何をすべきなのかを明確にしておくという趣旨も実は理念作りにはあります。

 

クリニック経営理念の「作り方」とは。

では、理念の作り方はどうしたらよいのか、という点について説明します。
先生方に「理念を作りましょう」とお伝えしても、「これから先どうなりたいかと聞かれてもわからない」とか「他の医院の内容を引用しても良いですかね?」とおっしゃる先生もいます。当然、未来の事は誰にも分からないですし、考えるのは大変なのですが、まず初めに押さえておきたいのはクリニックの成長ステップをある程度理解しておく事です。つまり、先を進んでいる同じ科目の先生方がどんな事業展開をされているのかという点を情報収集したうえで、現実的な成長ステップを描いてみます。

次に、それとは別で院長ご自身の過去の経験(嬉しかった事・悲しかった事、頑張った事、感情が大きく振れた事)を振り返り、ご自身のモチベーションの源泉や価値観を洗い出します。そのうえで、何を大事にしたい人で、医師や院長や、はたまた働く人という概念を取っ払って、自分という人間が本当はどんな事をやりたいのか、という事を考えます。それらを考える際に、ストレングスファインダー(ご自身の強み診断)や類人猿診断(性格診断)など、各種診断ツールも用いながら院長の人間面を正しく分析していきます。

クリニックは創業者の院長ご自身の方針や考えに大きく左右されますので、ご自身の方向性を明確にしたうえで、クリニックの方向性を定めていくのがおススメです。

ちなみに、このタイミングで私が院長によく投げかける質問は「あと何年、院長を続けたいですか?」という質問です。その理由は「終わりから考える方が色々と見えてくる」ケースが過去多かったからです。死生観のようなもので、死を定義するから生が自動的に定義されていくという考え方に近いです。

このように、自分とはどうありたいかという議論をざっくばらんに広げられるだけ広げた後に、VMVに落としていく。次にそれをスタッフさんにはどのように伝えていくかという伝え方を考える。その他にVMVをどのように活かして経営していくかを考えていく。そのような流れでVMVを作ってみてはいかがでしょうか。

 

つむぎ株式会社ではVMV作りをサポートしておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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