兵庫県丹波篠山市で、空き家の相談を専門とする一般社団法人丹波の空き家相談所。代表理事として、一人で空き家の相談に取り組んでいるのが西垣 雄一様です。

さまざまな経験を重ねたのち、西垣様の地元である丹波市で独立。「丹波の空き家をゼロへ」に挑戦する!という言葉を掲げている一方、空き家がゼロにならなくても、やり続けることが重要だと話します。これまでの経歴から今後の目標まで、余すことなく語っていただきました。

最初から不動産業の企業に勤められていたのですか?

いえ、そこに辿り着くまでは転々としました。最初は高校を卒業して就職したんですが、働き始めてから半年ほどが経ったときに、会社で働くことへの違和感を抱いたんです。ただ、違和感はあっても何がしたいのか分からない日々が続きました。

よく言われる「自分探し」の日々として仕事を転々としながら、何がしたいのかを見つけていた期間を過ごしていましたね。不動産業の企業に入社したのは、私が30歳になったタイミングでした。

資格も経験も一切ない人間でしたが、それでも採用してもらえたのは本当に嬉しかったです。不動産の仕事をするまで、長くても同じ仕事を3年程度しか続けられなかった私が、8年間も働き続けられたんです。いろんな職場を経験して不動産が自分に合うというか、好きなんだなと思えましたね。

以前にも営業の仕事をしていたのですが、不動産の営業は、同じものを売り続けるわけではないんです。全く同じ家はありませんからね。「営業」という感覚よりも「人と接する」という感覚が、自分に合っていたのかもしれません。

それから、入社する段階で言われたのが「5年働いたら独立できる」でした。会社がそう言っていたことも、独立を考えていた自分にとっては大きかったです。

そこから独立につながっていくんですね。

そうですね。ただ、独立した最初は「金融商品仲介業」として、証券会社の代理店のようなことをしていました。まずは独立したい気持ちが強くなっていた一方、そのときは不動産業で生きていける自信がなかったので、違う形で独立をしたんです。

おそらく、最初に独立したタイミングのときも、まだ何をしたいのか明確になっていなかったのでしょう。金融もまったくの未経験で飛び込んでいきましたから。ただ、独立して壁にぶち当たって、結果的にいい経験ができたと思います。独立の難しさを知ることができました。

金融商品仲介業の仕事は7年ほど続けていましたが、収入の柱とはなりませんでした。また、仕事でお客様のもとに向かっても、話の話題はやはり不動産に関する内容が多かったです。過去の経験や、お客様とも話をする時間を通して、やはり不動産に関する仕事をしようと決めました。

なるほど。空き家に関する事業をしようと思われたきっかけは、何があったのでしょうか?

きっかけは、私がビジネススクールに通っていたことが挙げられます。Web集客について学ぶために通っていたのですが、受講生の一人に、実家が空き家になった方がいたのです。

その方は空き家を不動産屋に査定してもらったものの、自分が希望する金額では売れなかったようでした。収益を作りたいわけではなく、空き家を抱えてしまうことに不安を抱いてたんですね。だから、「最終的にはいくらでもいいから引き取ってほしい」とおっしゃっていました。

空き家が売れるのかどうかに加えて、いつまで管理すればいいのかもわからない。そういった悩みを持つ方がいることを知って、空き家専門家になろうと思いました。

現在は「丹波の空き家をゼロへ」に挑戦する!を「志宣言」として掲げています。この言葉はビジネススクールに通っていたときに決めたものです。無料でもいいから引き取ってほしいと考える人は他にもいるはずだから、その人に向けたキャッチコピーを作るために、この言葉にしました。

「空き家をゼロへ」は非常に大きなメッセージ性があると感じますが、すんなり作れたのでしょうか?

ビジネススクールに通っていたときに「数字は入れなさい」と教えられましたので、その点は反映しましたね。すんなりと作れたわけではありませんでした。

「空き家をゼロへ」というメッセージにはしていますが、実際にゼロにするのは非常に難しいと思います。でも、私はそれで構いません。ゼロになることを目指して永遠に向かっていく、その気持ちのほうが大事だからです。

達成できる目標だと、達成した瞬間に終わってしまう。だから、達成できない目標にしました。明確なゴールはないですが、とにかくやり続けること。そんな意味合いが含まれている言葉です。

ありがとうございます。年間でどの程度の相談を受けているのか教えてください。

年間では約40件です。そこから売買につながるのは数件ですね。「とりあえず相談だけしたい」という方が多くいらっしゃるので。

決して知名度が高いわけではないので、相談が一気に増える可能性は、現段階では低いと考えています。実際に電話での問い合わせをいただいたときも、「丹波に空き家を専門にする人がいるなんて知らなかった」とよく言われるぐらいです。

また、相談がそこまで多くない背景には、相談をしていただくまでの期間の長さもあります。やっぱり自分が生まれ育った家が空き家になると、近所の目が気になったりして、すぐには相談に行けないケースもあるんです。

何年か経ってから気持ちの整理がついて、もう限界だと感じた時点で相談に来られます。ですので、ペースで言えば1週間に1件程度になりますね。

今後も「空き家をゼロへに挑戦する」というゴールに向かっていくと思いますが、組織を大きくする予定はありますか?

今のところそういった考えはありません。現在も私1人でやっていますが、この形で続けていくつもりです。

もともと、組織とか団体で働くことが好きではないから独立しました。仮に従業員を雇うとなると、自分で組織を作る必要が生じてしまいます。それは自分からすると避けたいので、自分でできる範囲の内容しかしません。仲介業はせず、不動産業に集中するつもりです。

ありがとうございます。最後に、人生の目標についてお聞かせいただきたいです。

将来的には、仕事半分・遊び半分といったライフスタイルで生活していきたいですね。毎日朝から夜まで働きたい人間ではないので、しっかりと休みを取りつつ旅行に行ったりしたいです。

「とにかく仕事優先」という考え方には、昔から違和感を抱いていました。自分はそういう生き方はしたくなかったですし、もっとのんびり生きていけるんじゃないかなと思っていたんです。

仕事を転々とした時期もありましたけど、「不動産業」に出会えたことに感謝しています。「仕事は生きていくための手段」として、今後もやっていかなければならないと思っていましたが、好きなことでお金もいただけるのは嬉しい限りです。

これは本当にスケールの大きな話ですが、空き家がどんどん増えていって、それを私が買い取り、最終的に一つの村を作れたら面白いなと考えています。自分が買い取った空き家だけで村ができたらいいですよね。

私が空き家を買い取って、その空き家をいろんな事業者の人がレストランやホテルを作って再生していく。その過程も見ながら、丹波の空き家がなくなっていけば嬉しいなと思います。